「2030年にバイリンガル国家に」。
台湾が国民に英語力を求める訳とは?
日本では、2020年から小学校中学年で「外国語活動」、高学年で「外国語科」を導入し始めました。
一方、台湾では、2001年から小学校でも英語が必修され、国民の英語能力向上が重点政策になっています。
台湾の経済成長は高く、世界有数の半導体や情報通信技術産業を持っています。
日本が1990年代まで世界トップを誇っていたハイテク産業は、今や台湾が世界トップです。
日本の英語教育が親しむところから始まるのに対し、台湾の英語教育は、「バイリンガル国家計画」と英語教育を強く打ち出しています。
なぜ、台湾はそこまで国家レベルで英語教育に力を入れているのでしょうか?
その背景には、台湾を取り巻く世界情勢が関係しています。
2020年11月、「2030年バイリンガル国家」政策の最初の諮問会議が開かれました。
蔡英文総統は、台湾人が英語を身につけて台湾の価値を国際社会に発信できるようになることは非常に重要だと述べました。
この政策は2018年に閣議決定され、同年6月には主要政策に位置付けられました。
国民の英語能力を高めるための具体的な施策として、公教育で二言語習得を奨励すること、英語専門のテレビ局を開設すること、行政や民間のサービスを二言語化することなどが検討されています。*1
日本では、「英語に親しむ」から入ってますが、台湾は、行政や民間のサービスを二言語化などバイリンガルの強い意欲を感じます。
そこには、台湾の2つの中国語も理由に挙げられます。
台湾の2つの中国語事情
台湾では、対岸にある中国・福建省の閩南語から派生した台湾語が使われています。
広大な中国本土では地域によることばの違いが大きく、福建語や広東語などの地域語は意思疎通が困難なため、北京語(北京官話)が標準語として位置づけられています。
台湾の国語は北京語で、学校の授業も北京語使用。
つまり、母語に加えて、中国本土はもちろん、他国の華人ともやりとりできる手段としてすでに北京語があります。
その上で英語の能力を高めようというのが、この「2030年バイリンガル国家」政策です。
台湾の英語教育
台湾では2001年に小学校で英語が必修になりましたが、それに先駆けて英語教育に取り組んでいる学校もありました。
2001年には、小学校5・6年生が対象でしたが、2005年には3年生から英語の授業が始められています。
実は、国民の英語力の強化が打ち出されたのは今回が初めてではありません。
2002年にも英語力の向上が盛り込まれましたが、成果は限定的でした。
今回の政策では、「聞く力や話す力、生活での運用能力を重視する」ことに目標が置かれています。
国際社会のなかの台湾
台湾と正式な外交関係のある国はわずかに15か国*2。「二つの中国」を認めない中国と対立関係にあるため、台湾は1971年に国連を脱退、中国と外交を結ぶ国とは断交しています。
隣国の日本とも双方に大使館がなく、民間の貿易や人的交流が中心です。
台湾にとっては、高い技術力や言語能力をもった人材を育てることが生存戦略であり、教育についても「国際社会での競争力」が繰り返し強調される理由はそこにあります。
バイリンガル国家の未来像
国策としてバイリンガルによって生き残りをかける台湾。
台湾の人口は、2千3百万人と日本の6分の1。
しかし、国の危機意識は高く、英語力を身につけた国民が国際競争力に繋がると計画しています。
日本では、小学校で「外国語活動」として始まった英語教育。
そこを先取りする英語で保育・幼児教育をするプリスクールが人気です。
「英語教育が必要」。
台湾の国家としての危機感と日本の親の早期英語教育の取り組み。
英語の取り組みは、子どもたちの未来を変える。
その思いは、同じようです。
*1 Tsai hoping English proficiency of Taiwanese can improve in 10 years
https://focustaiwan.tw/politics/202011230022
*2 台湾 基礎データ(外務省)