ホームニュース国際教育「PISA2022」の結果をどのように受け止めるべきか

「PISA2022」の結果をどのように受け止めるべきか

2023年12月5日に国際学力調査「PISA」の最新の結果が発表されました。本来、2021年に実施されるはずでしたが、コロナ禍により1年延期に。多くの関係者が固唾をのんで待ちわびるなか発表された今回の結果は、予想を上回る高評価との見方が多くあります。

この記事では、PISAがどのような調査なのかを確認しながら、日本の教育政策のどのような点が今回の好成績につながったと考えられるのか、そして積み残された課題と今後の改善の余地について分析します。


INDEX
▷PISA2022の結果はどうだった?
▷「PISA」とは?
▷PISA2018での課題はどうなった?
▷積み残された課題は?


PISA2022の結果はどうだった?

まず、最新のPISA2022における日本の結果から見ていきましょう。

前回のPISA2018では3領域全てで1位を独占したのは中国の「北京・上海・江蘇省・浙江省」でした。しかし今回はコロナ禍の影響で不参加に。その影響を考慮したとしても、日本にとっては、全般的にとても良い結果だったと言えるのではないでしょうか。

2000年の調査開始以来、OECD(経済協力開発機構)諸国の平均得点は長期トレンドで下降していると言われています。さらに今回はコロナ禍という難しい時期の教育力を問われる回でした。そのなかでも世界トップレベルの結果を示すことができた日本の教育は高く評価されるべきだと考えます。

「PISA」とは?

ところで、国際学力調査「PISA」とはいったいどのような調査なのでしょう。

正式名称は、Programme for International Student Assessment(国際学習到達度調査)。OECDが3年ごとに実施する国際的な学生の学力評価テストです。参加国の15歳の学生を対象に、「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」の3つの領域での能力を測定します。

調査の目的は,義務教育終了段階の生徒が、それまでに身に付けてきた知識や技能を実生活のさまざまな場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測ることにあります。これにより、自国の教育システムの強みや弱みを理解し、教育政策の改善に役立てることができます。また、学力だけでなく、学習態度や環境などもアンケート調査することで、より包括的な教育の質の評価を行っています。

2000年の調査初回は30の国・地域が参加しましたが、回を重ねるごとに規模が広がり、今回の調査では81の国・地域が参加しています。

実施回ごとに1つの領域が重点評価されるのも特徴です。前回の2018年では読解力が、今回は数学的リテラシーが重点領域となっています。

2015年からは紙ベースのテストからコンピュータベースのテストへと変わりました。これにより、現在の実生活に近い文脈で生徒の能力を測定することができるようになりました。また、生徒の解答結果に応じて出題内容を変える「多段階適応型テスト(Multi Stage Adaptive Testing : MSAT)」手法が導入され、高精度で生徒の能力を測ることもできるようにもなりました。

PISA2018での課題はどうなった?

ここで、前回PISA2018で指摘されていた日本の課題について確認します。重点評価領域であった読解力においては、低得点層が増加したことが課題のひとつでした。学習活動におけるデジタル機器の利用が他の OECD 加盟国と比較して低調であったことから、ICT機器の習熟度が低いことが得点を押し下げた一因ではないかと考えられていました。

今回、読解力も含め全体的な成績が改善傾向になった背景には、コロナ禍によって学校におけるICT環境の整備が強制的に進み、生徒が機器の使用に慣れたこと、そして現行の学習指導要領を踏まえた授業改善の成果が少しずつ出ていることがあるのではないかと文科省は見解を示しています。

教育現場において困難の多かったコロナ禍ですが、1人1台のICT機器を整備するGIGAスクール構想が大幅に前倒しとなり、結果として子どもたちのICT機器習熟度が高まったのは「怪我の功名」と言えるでしょう。

また、得点を落とした他国に比べ、休校した期間が短かったことも好成績に影響した可能性があるとOECDは分析しています。3カ月以上の休校があった生徒の割合はOECD平均の50・3%に対し、日本は15・5%。現場の先生方の尽力や家庭でサポートしたご家族の献身あっての結果だと言えるでしょう。

さらに今回、重点評価領域だった数学的リテラシーに関して、平均得点が高い国の中では、日本は社会経済文化的な背景が生徒の得点に影響を及ぼす度合いが低い国の一つでした。どのような境遇にある子どもであっても公平に教育を受けることができ、かつ、その成果も表れていることになります。この点も賞賛に値する結果だと考えます。

積み残された課題は?

では、日本の教育施策の課題はすべて解決されたのでしょうか?

国立教育政策研究所がまとめた「OECD生徒の学習到達度調査PISA2022のポイント」を見ると、いくつかの重要な問題が浮き彫りになります。

まずは「自律学習を行う自信」です。

自律学習とは、生徒自ら学習ニーズを診断し、学習目標を設定し、必要なリソースを特定し、適切な学習方法を選択・実行し、そしてその学習結果を評価することです。

このような自律学習を行うことに対する自信が、日本の生徒には不足していることが調査結果から明らかになりました。もし再び学校が休校になった場合、多くの生徒が「あまり自信がない」「全然自信がない」と回答しています。これは、変化の激しい現代社会で子供たちが自立した学習者として学び、成長していくためには大きな課題です。

国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査PISA2022のポイント」より

さらに、「授業でのICTの利用頻度」に関しても課題があります。

高校生自身が、情報を集めたり、記録したり、分析したり、報告したりといった場面でデジタル・リソースを使う頻度は、他国に比べて低いとされています。特に、「ICTを用いた探究型の教育の頻度」指標がOECD平均を下回っていることは、テクノロジーを活用した教育手法のさらなる改善の必要性を物語っています。

国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査PISA2022のポイント」より

最後にもうひとつ、重要なポイントがあります。それは、今回のPISA2022の調査対象には通信制高校の生徒や不登校の生徒が含まれていない点です。

日本の教育システムの現状や課題を全体的に把握するためには、彼らの学びも含めたトータルな調査が欠かせません。どのような環境に置かれた生徒に対しても質の高い教育を提供し、社会に貢献できる個人として成長できるようサポートをすることが、教育の公平性を確保する上では重要だからです。今後、さらに網羅性が向上し、日本の隅々にある課題をもすくいあげるような調査になってほしいと願っています。

原稿:Knockout
編集・構成:原知子

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