ホーム小学校教育トレンド僕とあなたと学校と-オルタナティブスクールからの提言②

僕とあなたと学校と-オルタナティブスクールからの提言②

教育界の新たな潮流であるオルタナティブスクール。画一的な教育ではなく、生徒一人一人の探求心に基づいて自律的・主体的な学びを尊重する教育スタイルは、多様性への理解が深まるとともに存在感を増してきました。私立校の教員として日本語版インターナショナルバカロレア校を立ち上げ、ICT教育の推進にも一役買ってきた五木田洋平さんが、オルタナティブスクール界へ転身したのは2021年のこと。両極ともいえる教育スタイルを熟知する五木田さんだからこそ見える、日本の教育制度の課題、オルタナティブスクールの可能性とは-。本連載は、2022年8月に行われた埼玉大学教育学部での講義内容を中心に、五木田さんの言葉でつづるコラムとしてお届けします。


五木田氏五木田洋平(ごきた・ようへい)氏
10年間私立小学校の教員として勤務し、2022年に開校したオルタナティブスクール・HILLOCK初等部の設立から参画、現在に至る。ICTを用いながら学習者同士の気付きを促す学びの場を構築する活動を行っている。また、シンガポール日本人学校の研修講師や、大学の特別講座の担当、勉強会の企画運営も行うなど幅広く活動している。HPはこちら。2022年2月、初の単著「ICT主任の仕事術 仕事を最適化し、学びを深めるコツ」を刊行。


<連載>僕とあなたと学校と②

「べき論」「How to」よりも必要なこと

最近、SNSの発達とともに「教育はこうあるべき」といった方向性を示す『べき論』や、「こういう教育をやると効果が高い」という『How to』がさまざまなところで語られるようになりました。Facebookでは無料セミナーが連日開かれ、Twitterやinstagram、TikTokでは指導法や教員指南の意見が溢れています。書店に行けば多くの教育書を見かけることもできます。議論が活発になることは良いと思いますが、僕はむしろどちらの意見も飽和していると感じています。

では、飽和しているのにもかかわらず、どうしていつまでも子どもの教育に課題が言われ続けたり、教育業界に疑問を呈されたりすることが減らないのでしょう。職員室に目を向けると、教育観や教育の手法の違いによる教員同士の不和があるという話も珍しい話ではありません。

僕は『べき論』や『How to』が足りないのではなく、むしろ「自分」と「相手」への理解が足りていないと思います。

「自分」や「相手」が、どんなことを理想としていて、どんな事ができるのか。どんなことが苦手なのか、どんな関わり合い方が心地よいのか、といった「自己理解」と「相手への理解」です。仲良くなる、共感するといった感情の一歩手前にあるのが『理解』だと考えています。

どんなに素晴らしい教育理念や教育方法でも、自分に合っていなければその効果は期待できないでしょう。また、教員同士が「なぜ教員になりたかったのか」「目の前の子どもたちをどう見ているのか」「どんな方法が子ども達に必要なのか」といったことを対話しないまま、自分とは異なる子どもへのアプローチ方法や仕事の取り組み方を目の当たりにしたら、不信感が募ることもあるでしょう。

あいつのやり方は間違っている--。
教育業界だけではなく、組織で物事に取り組む際に、聞かれる言葉です。

しかし、「あいつ」はなぜそのような方法をとったのでしょう。
もっと言えば、「あいつ」はなぜ教員になったのでしょう。
「あいつ」はどんな学校を目指しているんでしょう。

逆に言えば、「じぶん」はなぜ今の方法をとっているのでしょう。
「じぶん」はなぜ教員になって、どんな学校を目指しているのでしょう。
「あいつ」も「じぶん」もそれらを適切な言葉で表せるのでしょうか。

前例主義がはびこり、忙しい教育業界では、立ち止まってそう問い直すことも難しいです。
こんな想いから、今回のテーマを「僕とあなたと学校と」と名付けました。「自分」と「あなた」と「学校」それぞれの理解を深めたり、関係を考えたりすることが大切だと考えているからです。

大学講義でワークショップ
まずは、自分と相手を『理解しよう』

埼玉大学での講義では、2つのワークショップを実施しました。

一つ目は『自分のことを相手に知ってもらう』活動です。

アイスブレイクも兼ねたこの活動の核は「誰とも被っていない趣味や経験」の開示です。全員教育学部という所属が同じなのにも関わらず、一人ひとり、今までの経験はバラバラです。「自分では当たり前だと思っていたけれど、珍しい経験だった」という感想も聞こえました。相手に知ってもらうことで、自分を知ることにもつながります。特にこのコロナ禍では自分の「あたりまえ」を開示する機会も減っていたことでしょう。

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埼玉大学での講義の様子

2つ目は『理想の学校をつくろう』という活動です。

「自由で、選択肢があって、自分らしくいられる学校をつくる」というワークショップ

デジタル上でグループごとに自分の理想とする学校のキャンパスをつくってもらいます。
前述したように『自分と相手の求めていることが違う』ということを体感するのが狙いです。その上で相手の意見を受け入れたり、偶発的によりよいものをつくったりする経験をして欲しいと思いました。

”理想”と思う学校は、人それぞれに違う

学生たちはどう受け止めた?
200件以上のフィードバックから

今回の講義を受けた学生のフィードバックの一部を紹介します。今の学生は本当に優秀な方が多く、以下のような意見が200件超寄せられました。

◎私は教師になりたいわけではなく、なんとなく教育学部に入ったので、今回の話を聞いて公立の教師になること以外にも選択肢が多くあることを知りました。教育に関わる仕事をしたいという気持ちはあるので、多くの情報を収集して自分のやりたいことを見つけたいと思いました。年齢や性別に関係なく自分のやりたいことを始められる社会になってほしいと感じました。
◎今回の講義を聞いて、私は公教育しか知らなかったためこの学校に入って教員について知るなかで、現段階では先生になりたいとは思わなくなってしまいましたが、オルタナティブスクールの考えを聴いて興味深く感じ、このような学習機会を与えることをしてみたいと思いました。学校に関わらなくても教育の理論はあり、これから自分が何をしたいのか、この大学生活を使って積極的に考えたいと改めて思いました。「3つのない」にもありましたが、オルタナティブスクールという1つの選択を知ることができてよかったです。
◎学校の在り方はひとつじゃないんだと知ることが出来て見識が広まった。グループの人の性別、性格、趣味関心によって多種多様な理想の”自分らしくいられる学校”ができるのだということが分かった。

 

教員にも多様な選択肢を
画一的からオルタナティブに

教員志望の学生が年々減っていっているというニュースが珍しくなくなりました。埼玉大学の船橋一男教授によれば教育学部に入学した学生のうち、最終的には少なからぬ数の学生が教員を志望しなくなる現状もあるそうです。

その理由の一つに、『自分が教員になって活躍できる未来が見えない』ということがあるのではなでしょうか。求められている人物像が画一的であれば、そこに当てはまらない人は、離れていくのは必然のことです。

僕はそういった教育業界にオルタナティブの教員として想いを伝え、ヒロックのような学び場をつくることで、多様な選択肢を提示できればと思っています。

(連載③へ続く)

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写真・資料:五木田氏提供

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