日本一の頭脳:東大総長が大賞を与えたオンラインの学びとは?

日本一の頭脳:東大総長が大賞を与えたオンラインの学びとは?

東京大学は、大学、大学院を含めて年に一度、学業や課外活動など顕著な活躍をした在校生に東京大学総長賞を授与しています。

総長賞の中からさらに「大賞」が選ばれています。令和3年度は、総長賞を受賞した13人及び団体から2人が選ばれています。

まさに東大の学部生、院生の中でもトップオブザトップと言える受賞が東大総長大賞です。

令和3年度は、13件が東京大学総長賞を受賞し、そのうち学業分野では「宇宙論的シミュレーションと機械学習を用いた宇宙大規模構造の解析」が大賞を受賞。

課外活動分野では「東京大学におけるオンライン教育支援の経験から 生まれた教育プラットフォーム「LearnWizOne」 の開発とその評価としてのEdTech分野における世 界最大の国際コンテスト部門優勝」が大賞を受賞しました。

総長賞の約半分が大学院の学生ですが、その中で学部3年生で大賞を受賞したのが中條麟太郎さんです。

中條麟太郎さんは、中高とロジカルシンキングの「ロジム」に通いました。

編集部では、中條麟太郎さんの東大総長大賞受賞の背景とロジカルシンキングについてロジムの苅野代表に対談をお願いしました。

東京大学公表の東京大学総長賞令和3年度一覧のスクリーンショット

東京大学在学中でオンラインアクティブラーニングのプラットフォームを展開するlearnWiz CEOの中條麟太郎氏と学習塾ロジムの苅野代表との対談です。

ロジムの卒業生でもある中條氏は、東大のオンライン学習の教員側のサポートを通じ、新たなオンライン教育プラットフォームの構想を得て、Edtechの国際コンテストで優勝し起業。すでに多くの大学において導入されています。


本コラムは、小中高生がロジカルシンキングを身につけるための各種講座を開講する学習塾ロジムの塾長・苅野 進 氏による連載コラムです。子どもたちが世界のどこでも誰とでも、共に生きていくためには何が必要でしょうか。

eduJUMP!編集部では、言語能力や探究する力と並んで、世界で問題ごとを解きほぐし、自らの立場を明らかにし発信する人々にとって必要なスキルとして、あらためて「ロジカルシンキング」に注目しました。

苅野 進 氏
東京大学卒業後、大手人事・経営コンサルティング会社で社会人向けのロジカルシンキング研修、指導を担当。その中で、英語教育などと同様小さい頃から考え方の基礎に親しむ必要性を痛感し、2004年にロジムを設立。


編集部:コロナによって留学はもちろんのこと、対面授業すら難しい時期が続きました。そろそろ元の形に戻れるのではないかという雰囲気も出てきている中で、コロナを契機に生まれた「新しい学び」の形である「オンライン学習の今」をテーマにお伺いしたいと思います。

オンライン学習の「過度な期待」から「次のオンラインへ」

苅野:オンライン学習は、現在ガートナーのハイプサイクルで言う「過度な期待」からの「幻滅期」にあると言えるでしょう。

2016年にMITが開始して以来、正規の学校プログラムがオンラインで行われることへの大きな期待感はありました。

そこにコロナが発生して、一気に無理やり押し進められることになったのです。

しかし、実際に導入してみたら「集中力」や「友達とのつながり」などの重要な要素がオンラインでは実現できていないという「大きな幻滅」が教える側にも学ぶ側にも大きくなっていると思います。

中條:東京大学でも、先生方から「顔が見えない」「発言が減ってしまった」という声を聞く機会が多くありました。また、学生も「他の生徒がどんなことを考えているかわからない」「何百人もの人が聴講している中で、オンラインで発言するなんて怖い」という声も上がったのは事実ですね。

苅野:このような問題に直面するとやはり現状維持バイアスが働いて「やっぱり対面がいいよね!」という方向に押し戻そうとする流れは出てきてしまいます。

しかし、「幻滅期」は「消滅」とは違います。私たちを含め、本気のプレイヤーは、ここまでに得られた膨大なデータや知見を活かして、オンラインの良い面を活かし、足りない面を改善していく「次のオンライン」へと進んでいます。

中條さんも、まさに問題発見、解決へと取り組みながら成果を出している重要なプレイヤーだといえるでしょう。

中條:ありがとうございます。私の出発点である東京大学でのオンライン授業に関わった感覚で言えば、2年という長く、逃げられない期間によって当初のオンラインから大きく進化させることが出来たという事実もあります。

コロナ禍が始まった2020年3月当時は「オンラインは対面の代わりにはならない」という拒否反応が大きかったのですが、コロナ禍が長期化すると、もう逃げられなくないわけです。

東京大学では、先生も生徒も「いかにオンラインで生き抜くか」という切羽詰まった状況になりました。教える側も学ぶ側も「学び」への欲求が高かったからこそ様々なトライアンドエラーが生まれたわけです。

デジタル世代の学生は、オンライン講義中の発言、文章を打ち込むことへの警戒心も

苅野:オンラインの欠点ってなんだろう。ということを深く考えることで、学びに必要な要素は何かという根本的な問いを考えることにつながったと言えるのではないでしょうか。

中條:そうなんです。教室における「学び」は、先生が説明する情報だけで成立しているわけではないことに改めて気づいた上で、それらを言語化し、対応してきました。

クラスメイトがどのような反応をしているのかとか、ちょっとした一言とか、動きとかですね。そういう情報を横目で見て学びの大切な補助としているなどといったことをどのように実現するかという問題に取り組んだのです。

苅野:慣れている教室の中とは違い、録画されているオンライン講義中では、発言してもらう動機付けや内容も変わってきますよね。

中條:私の注目している「心理的安全性」も大きく関わってくる問題です。オンライン講義中に発言したり、ましてや文章を打ち込んだりすることへの警戒心はデジタル世代の学生の方が強いかもしれません。

先生方が「オンラインでももっと積極的に発言してほしい」と音頭をとっても二の足を踏んでしまうものです。

苅野:オンラインが始まったばかりの頃は「知識」「情報」を先生から生徒へと伝達することにとにかく注力されてきました。従来の授業をそのまま移行することです。

しかし、同時に「学びの付随環境」をいかに再現するか、または代替するかが大事だということがわかってきたのですね。そうしないと「心理的安全性」が実現しない、つまり安心して発言も発信もできない。

中條:オンラインでも驚くほどの対応力で学べる学生もいて、彼らは大きな収穫を得ています。

だからこそ、オンラインに恐怖心を持ってしまったり、うまく使いこなせなくて困っている方々の「ボトルネック」を解明して対応してあげることが社会的な課題でもあると考えています。

このような「初期不良」によって、オンライン教育全体を否定したり、放棄してしまうのはあまりにもったいないと思います。

苅野:この20年ほどを見るだけでも、デジタル化を毛嫌いしたり、対応を面倒だと考えてしまったりすることで大きなビハインドを背負ってしまった方々や分野は少なくありません。

中條さんからは、オンラインの利点を多くの方がしっかりと享受できるように後押ししてあげたいという使命感を感じます。

中條:はい。自分の周りでもこの数年でオンラインによって海外に行かなければ会えなかった教授から貴重な指導を受けることができたという学生を多く見かけるようになりました。

対面ほどではない、留学には叶わないと言われているオンライン英会話を使って、驚くほど流暢な英語力を身につけた友人も少なくありません。

私自身も、東大駒場キャンパスと本郷キャンパスの授業を連続で受講できたり、他学部や海外大学の受講などで恩恵を実感しているので、「オンラインってダメだよね」という流れで消えていってしまうことだけはなんとか避けたいという願いもあります。

LearnWiz One は、「グループワーク」「闊達なディスカッション」で「ディスカッション」でアクティブラーイングを促す

苅野:中條さんの開発したLearnWiz One は「アクティブラーニング」という、オンライン教育が最も苦手とする領域にチャレンジしたものだと言えますよね。

中條:「グループワーク」「闊達なディスカッション」などはまさにオンラインでの教室運営の「ボトルネック」となっていたものです。

拘っているのは、「心理的安全性」をいかに確保するのかという点と、「書き込んで発表する」という作業をいかに優しいユーザーインターフェイスで実現しするかという点です。

苅野:その2点は、実は対面授業でも先生方が苦心していたり、逆にスキルを発揮しているところでもありますね。

中條:そうなんです。私たちは、単に対面授業をオンライン上に再現するだけでなく、各自が端末を持っているという利点を活かし、もっと個々に寄り添った形でサポートできるのではないかと挑戦しています。

苅野:匿名と実名の使い分けや、グループ会話の表示形式や共有画面のデザインには、「今の子どもたちの気持ち」に配慮した工夫を感じました。

中條:ありがとうございます。教室では先生方が「どんどん発言して」と促してもどうしても積極的な生徒とそうではない生徒の差が出てきてしまいます。また、有益な発言であっても聞き取ったり、書き留めたりすることも難しいのが現状です。そこで「発言のしやすさ」と「発言の共有·利用のしやすさ」を同時に追求したいと考えて、細かい修正·アップデートを続けています。

教員のストレスや恐怖心

編集部:オンライン授業は先生の側に大きな負担が掛かってしまうという問題点も指摘されています。

苅野:まさにその点が「従来の対面式に戻そう」という流れの本質だと思います。

「教える」立場の皆さんは、職業として獲得したスキルもありますが、自らが学んできた20年以上の経験も総動員して教壇に立っているわけです。

「自分が受けたことがない」という授業をすることには大きなストレスや恐怖心もあるはずです。そして、研修や自己研鑽によって一朝一夕で身につくものでもないので大変です。

中條:新しい教材や学びの環境は、「教える側にとっても快適である」ことがとても重要だと感じています。私は、コロナ禍における授業オンライン化プロジェクトにおいて先生側のサポートにも従事しました。

「言葉のやりとり」「表情の読み取り」をオンラインでそのまま再現しようとすれば、どうしても不具合が生じ、双方に不満の残る講義になってしまいます。

将来的にはVRで「完全な臨場感」が再現されるとは思いますが、現状は「ディスプレイ」を介してどのような形がより良いのかを考える必要性があります。

オンライン授業で「生徒の反応にリアルタイム」に感知する先生

苅野:東大のオンライン授業に関わってきて、意外な「気づき」はありましたか?

中條:毎日のようにありますね。例えば、「わかりやすい」と評価を受ける先生は、生徒の反応をリアルタイムで感知することを重視していて、本当に瞬時に話し方や順序、繰り返しなどの対応をしています。

ですので、オンライン授業中や授業後に「生徒の反応」という情報をいかにして集めるかに工夫をしています。ちょっと難しすぎる話になった時に教室になんとなく広がるざわめきや戸惑いの雰囲気などですね。

苅野:表情豊かな生徒数名でもカメラをオンにしたいですよね(笑)

中條:まさに数人だけでもビデオオフにしてほしい」という教員の声は聞いたことがありますし、授業後もビデオ会議を開いたままにしておいて、学生とコミュニケーションをとっている教員もいます。

苅野:このような過渡期だからこそ、教える側も学ぶ側もPDCAを回していく姿勢が大事なのかもしれませんね。

中條:教える側もマニュアルが欲しい、学ぶ側もこれが一番効率的だという答えが欲しい気持ちもわかりますが、過渡期の現状において答えはありません。

例えば、東京大学では「グッドプラクティスの共有」として、学生からの評価の高かった教員を中心に表彰して、事例を共有するという取り組みがなされました。

コロナ禍以降の2年間だけでも、オンラインでできることは大きく変わっています。日々の情報収集と改善を繰り返しが、より良いオンライン授業に繋がるのではないかと思っています。

しかし、東大の中でも先生方の「GOODプラクティス」の表彰や共有などを通して、日々アップデートしている最中です。

この2年でオンライン授業のニュースは減りましたが、むしろ内容の変化は大きいと感じていますので、食わず嫌いせずに使ってみて欲しいですね。

eduJUMP! 編集部
eduJUMP! 編集部
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