国際高等専門学校(以下、国際高専)は、日本国内初の英語で学ぶ高専として2018年に開校しました。前身の金沢工業高等専門学校にあった電気電子工学科、機械工学科、グローバル情報学科の3学科を統合した「国際理工学科」は、グローバルな理工系教育を実現する学科として注目を集めています。同校の特色の一つであるニュージーランドへの年間留学(3年次)が、コロナ禍において中止になるという苦しい時期を経て、今年度、初めての卒業生を輩出予定。卒業後の進路も気になる同校の白山麓キャンパス(石川県)の今を取材しました。
『高専×国際教育』 という選択肢
高等学校等への進学率が98%以上の日本ですが、高専への進学者は1%未満と低いのが現状(2022年12月文部科学省「学校基本調査」)。全国に57校と設置数が少ないこともありますが、「男子しかいない」「高卒扱いになる」といった誤解も根強く、「技術が身に付く」「就職に強い」だけではない特色ある高専への変革も求められてています。
世界的に見れば理工系人材の需要は高いものの、日本では「英語の出来る理工系人材」の教育の場は限られてきました。そこに登場したのが国際高専なのです。
1・2年生は金沢市郊外の白山麓キャンパスで寮生活を送り、3年生では1年間ニュージーランドの国立オタゴポリテクニクへ留学。4・5年生は金沢キャンパスで、金沢工業大学と連携しながら、大学の専門科目も履修するという唯一無二のカリキュラムが魅力の5年間の学校です。
国際高専の『English STEM教育』
国際高専では、『English STEM教育』を掲げ、Science(科学)Technology(技術)Engineering(工学)、Mathematics(数学)などのSTEM系の授業を、英語で学びます。教員の半数以上はアメリカ、カナダ、イギリス、ニュージーランド、タイ、エジプト、チュニジアなど海外の出身者で、国際色豊かです。
入学時には、インターナショナルスクールのような「年齢相応の英語力」よりも、寮生活や海外留学を含めた5年間に及ぶ学校生活を送れる自立心や精神力を重視。英語は、入学直後から「ブリッジイングリッシュ」と呼ばれる授業で、理工系分野における英語の語彙や表現方法を事前に学ぶことで、英語でのSTEM系の授業にもスムーズについていけるようになるそうです。
実際に見学した2年生の化学の授業では、講義は全て英語で行われ、教科書も当然ながら英語で書かれていましたが、内容が理解出来ずに困っているような学生は見受けられませんでした。入学してから1年半でここまで英語力を上げることができる手厚いサポートは魅力の一つです。
エンジニアリングデザイン教育やプログラミングなど、幅広く英語で学ぶ
国際高専では「エンジニアリングデザイン教育」を教育の中心軸に据え、授業で習得した工学の知識やスキルを使い、ユーザーが抱える課題を解決するプロセスを実践しながら学んでいきます。学生は1人1台のパソコンを支給され、キャンパス内のレーザーカッターや工作機械、3Dプリンターなどを自由に使う事ができます。あらゆるデバイスが揃った環境で学び、プロトタイプの製作など、世界標準の活動に専念できる恵まれた環境です。
プログラミングの授業ではHTML/CSSから始まり、Java ScriptやPython、コンピュータサイエンスなども5年間かけて英語で学びながら、自分の興味・関心のある分野を考えていくのだといいます。国語や歴史文化など日本語で学ぶ科目もあるため、英語と日本語のバイリンガルスクールといった印象です。
『ラーニングセッション』で学びを定着させる
国際高専の校舎には、まるで海外の大学のような雰囲気があります。リビングコモンズと呼ばれる開放的なスペースでは、学生は勉強したり、意見を交わしたり、時には自作のボードゲームなどで遊んだり自由に過ごします。
このリビングコモンズを活用した『ラーニングセッション』は、魅力的な学びの一つです。ラーニングセッションとは、寮生活という環境を活かした学びの時間のことで、平日19時半~21時半まで、学生達はリビングコモンズなどで毎晩勉強します(水曜日のみ自由参加)。学生だけではなく、ラーニングメンターと呼ばれる外国人教員も参加しており、気軽に質問できる環境で、学びの定着を図ります。
ラーニングメンターは、学生と年齢が近い若い教員が担当。授業内容についての質問にも答えられるよう、学生と一緒に授業を受けているそう。取材時も、教室の片隅に女性の外国人教員が一緒に授業を受けており、熱心に学生と向き合う姿が印象的でした。授業時間外でもしっかりサポートを受けられる環境は、まさに至れり尽くせり。塾に通う必要がなく、校内で学びを完結できるのは寮生活ならではの利点です。
寮での学生生活
白山麓キャンパスは広々とした体育館やジム、ボルダリングなど施設も充実しています。寮は、6人で1つのユニットとし、各ユニットでトイレ、洗面所、シャワー、冷蔵庫、電子レンジなどを共有しますが、部屋は個室です。キャンパス内には温泉施設もあり、国際高専の学生は毎日無料で利用する事が出来ます。
日々勉強で忙しい学生ですが、希望者は自作のロボットでロボコンに出場したり、放課後はクラブ活動に参加したりと、自分の興味に合わせて課外活動も。週末は朝の点呼はあるものの、月に1度は学校から金沢市内への無料バスがあり、ショッピングや映画を楽しんだり、実家に帰ったりと、自由に過ごしているそう。寮生活といっても、ガチガチに規則に縛られている訳ではなく、勉強と自由時間のバランスがとても良いと感じました。
国際高専が選ばれる理由
中学を卒業してから、親元を離れて寮生活や1年間のニュージーランド留学などを含む5年間を国際高専で送る学生は、一体どんな理由で国際高専を選んだのでしょうか。
男子学生:将来は、外資系車メーカーのエンジニアになりたいので、エンジニアについて学べて、同時に、英語も習得できるためです。
女子学生:そんな事ないです。もともと理系ですし、英語も好きなので、3年生次のニュージーランド年間留学が決め手の1つです。
どちらの学生にも共通するのは、親から勧められた訳ではなく、自ら調べて探してきたという点。一見、一般的な10代の若者に見えますが、たわいのない会話の中にも、少しだけ人と違う選択をした自分に対する、ほのかな自信が見え隠れしているように感じました。
国際高専生の卒業後の進路
5年制の高専では、大学受験に捉われる事なく自分の興味ある分野を絞り込み、進路を決定していけるというのが強みの一つです。今年度卒業予定の学生の進路は、メーカーやIT系企業などへの就職の他、金沢工業大学への3年生次編入、オーストラリアの大学への進学などさまざま。偏差値だけに囚われず、自分のやりたい事に向き合い、就職や国内・海外の大学へと将来の道を選んでいくそうです。多感な10代の時期に落ち着いた環境で学び、5年間かけて日本国内でも海外でも通用する人材を目指せるという希有な学校である国際高専の今後の動向に、目が離せません。
構成:原知子(eduJUMP!編集部)