近年、世界中で理数教育への関心が急速に高まっています。科学、技術、工学、数学(STEM)の分野が、今後の社会や経済の発展に不可欠であると広く認識されるようになり、各国は教育改革を進め、次世代を担う人材の育成に力を入れています。国内でもインターナショナルスクールなどが早期からSTEM教育に力を入れており、日本の教育現場にも大きな影響を与えています。
文部科学省が指定する「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」は、先進的な科学技術、理科・数学教育を通じて、生徒の科学的な探究能力等を培うことで、将来社会を牽引する科学技術人材を育成するための取組です。
SSH指定校における具体的な取り組み、実践例
全国に225校あるSSH指定校。いかなる取り組みが行われているのでしょうか。
具体的には、企業や大学、研究機関と連携した最先端の技術に触れられる特別授業、英語による研究成果報告のプレゼンテーション、課題研究や探求的な学習活動の推進などが行われます。カリキュラムや内容は学校によって異なりますが、国内外の大学、研究機関、企業と提携し幅広い視野での理数教育を提供しています。
実際のSSH指定校での取り組みを紹介します。
①横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校
「マレーシアの大学生と日本の高校生による国際共同課題研究の開発と普及」
令和四年度からSSH重点枠に指定された当校では、「海外大学との高大接続を視野に入れた国際共同課題研究の開発と普及」をテーマに、マレーシアのプトラ大学(UPM)の大学生との定常的な国際共同課題研究の開発と普及に取り組んでいます。
研究活動の充実だけでなく、スピーキングやリスニングなど、英語力の向上を実感する生徒が多くみられるようです。
https://www.jst.go.jp/cpse/ssh/result/case/20240815.htmlより引用
②学校法人立命館 立命館高等学校
「理系グローバル人材育成に向けて ~国際舞台での経験を日本中の高校生へ~」
オンラインを活用した海外校との国際共同研究、毎年11月に開催される「Japan Super Science Fair(JSSF)」を開催し、海外校約30校、国内校約10数校による課題研究発表を行います。JSSFについては生徒による実行委員会が組織され、生徒の主体性が尊重されています。
https://www.jst.go.jp/cpse/ssh/result/case/20230829.htmlより引用
③福井県立若狭高等学校
「地域資源活用型探究学習で地域と世界を結ぶ科学技術人材を育てる!」
地域でのフィールドワークや地域課題の探究を通じて、文理を問わずそれぞれの研究テーマに合った課題の発見、検証を行っていきます。現状分析→仮説の設定→検証→振り返り→新たな課題を生み出す という「課題を生み出すサイクル」を重要視し、国内外の機関との連携も行い生徒の探究をサポート。過去には地元食材の「サバ缶」が宇宙食として認められるなど、地域と世界をつなぐ多くの実績を生み出しています。
https://www.jst.go.jp/cpse/ssh/result/case/20220712.htmlより引用
日本は理系が増えない?
2022年の教育未来創造会議において、日本は自然科学(理系)分野を専攻する学生の割合を、OECD諸国で最も高い水準である50%に引き上げることを目標としました。その背景には、OECD諸国と比較して日本の現在の理系の割合が低く、さらに変化の見られない状況が続いているためです。
課題はこれだけではありません。理系分野における女子学生の進学率の低迷下、研究資金の不足、学際的な連携の不足など解決すべき問題が多く蓄積されています。このような状況で、理系に進学する学生の数を増やすことで、現状に対する具体的な改善策の提示や現場の声が上がりやすくなり、先に述べたような様々な問題への解決の道が拓かれることでしょう。
脱炭素化、デジタル、人工知能(AI)など、世界では理系分野における急速な発展が進んでいます。SSH指定校をはじめとした先進的理数教育への取り組みは、このような国際社会の変化に柔軟に対応し、日本の成長や発展を促す人材の育成をさらに促すことが期待されます。