世界一のセレブスクール、ル・ロゼの前校長が語る『スイスのボーディングスクールの魅力とは』
‐‐即満席!注目の欧州ボーディングセミナーより
2022年9月25日、港区六本木にある国際文化会館で、セミナー『欧州のトップスクール元校長に聞く、ボーディングスクールの魅力』(主催:次世代教育環境開発)が開催されました。当日は、海外留学などを進学を検討している家庭を中心に60人超が参加。今、注目を集める欧州ボーディングスクールの魅力に迫る講演に、熱心に耳を傾けていました。
eduJUMP!では、即満席となった同セミナーの模様を3回に分けてレポートします。第2回目となる今回は、世界一授業料が高いことで知られる、スイスの名門ボーディングスクールLe Roseyの前校長、ロブ・グレイ氏のお話で『スイスのボーディングスクールの魅力』をお届けします。
Michael Rob Gray( ロブ・グレイ) 氏
Institut Le Rosey 前校長(2002年〜2019年)
Le Rosey 理事・上級顧問(2019年〜)
Le Régent International School 校長(2020年〜2022年8月)
最高の学びを約束するゴールデンチケットなんて無い
私たち保護者は、自分の子どもがどこの学校、大学に入学し、卒業するのかに対して強い興味関心があります。世界中のどこでも、保護者は誰しも自分の子どもたちが最高の学校や大学に入学して欲しいと思っていて、それはケンブリッジ大学やスタンフォード大学かもしれないし、シンガポール大学や東京大学かもしれません。
名門大学に合格させるために、イギリスであればパブリックスクール、アメリカならプレップスクール、そしてスイスであればボーディングスクールに子供を通わせる家庭が多くあります。
しかし、最高の大学に必ず合格するようなゴールデンチケットはあるのでしょうか?例えば、ハーバード大学に必ず合格できるというようなゴールデンチケットがこの世にあるのでしょうか?
その答えは「ノー」です。ゴールデンチケットなんて存在しないのです。
多国籍で多文化、公教育の水準も高い教育先進国のスイス
私たちは、子供たちが社会的な成功と、個人としての幸福を満たす、バランスの取れた存在であって欲しいと願っています。
実際のところ、もしあなたの子供が世間的にトップクラスの学校や大学に入学したとしても、彼らが最高の教育を受けたのかどうかは、彼ら自身が、卒業後に判断することになります。
ボーディングスクールでは、子供たちは健全な学習環境の中で、尊敬できる仲間に囲まれ、協力的で友好的なコミュニティの中で成長することができます。
ボーディングスクールといえば、イギリスにあるラグビー校やイートン校、アメリカではホチキス校やフィリップスエクセターは有名でとても人気があります。
しかしながら、これらに在籍する生徒のうち、イギリス人でもアメリカ人でもない生徒の割合は15%程度しかありません。つまり、それらのスクールは、イギリスやアメリカに住む人の為の学校という側面が強く、多国籍で多文化が実現した”インターナショナルスクール”ではありません。
スイスにあるボーディングスクールを選択する理由は、まずはロケーションの美しさです。ヨーロッパの中心にあり、とても歴史的で、湖や山、美しい町や都市があり、夏はハイキングや乗馬、冬はスノースポーツなど、人間性を豊かにするあらゆる課外活動ができる土壌があります。
スイスには国営の教育システムがありますが、非常に規律正しく厳格な教育として知られています。それはスイスにあるボーディングスクールにも少し反映されており、自由と規律が共存したカリキュラムが世界中から評価されています。
スイスの教育システムは優れており、その根拠としてノーベル賞受賞者の多さが挙げられます。人口は850万人しかいない中で、スイスはこれまで27のノーベル賞を受賞しており、国民一人当たりのノーベル賞受賞率が世界で最も多い国なのです。
他の言語や文化に柔軟で、投資にも熱心なスイスのボーディングスクール
実は、スイスのボーディングスクールはイギリスやアメリカと比較すると歴史の浅い学校が多く、このためアメリカ式やイギリス式など、他国のスクール運営制度やカリキュラムを取り入れている学校が多いです。
また、スイスはドイツ語圏である一方、フランスに近いエリアではフランス語の授業も多く提供されているので、多言語習得が目指せます。
次のスライドは、スイスのボーディングスクールが所在している地図です。スイス全土にありますが、そのほとんどはジュネーブに近い山間部にあります。
そして、こちらにあるスクールは全て財団では無く営利団体で、スクールが出した利益は再投資され教育環境の向上に役立てられています。
生徒の多様性を担保するための工夫
一般的に、他国にあるボーディングスクールに入学するために、離れた国から一人でやってくる生徒は珍しい存在です。しかしながら、ル・ロゼの良いところは、そのような生徒が大半を占め、非常に国際的だということです。
イギリスやアメリカでは、学校に在籍する生徒のうち、外国人生徒の比率は15%程度だと申し上げましたが、ル・ロゼを見ると、90%の生徒がスイス以外の国から来る外国人生徒で、およそ70の国や地域から生徒が集まっています。
そして、ル・ロゼではある特定の言語グループの子どもたちに支配されたくはないと考えており、常に一つの国籍が支配的にならないように、生徒の国籍や第一言語が多様性に富むように入学時点で選考しています。
ちなみに、私が昨日の時点での在籍生徒数を確認したところ、日本人学生は全学年で26人在籍していました。今のところは問題ないのですが、クラスに何人も日本人学生が在籍し、そこでグループを形成するような状態にはしたくないと思っています。
将来的に帰国する可能性や言語の安定を視野に入れた教育
私たちは、各言語ごとに専門の先生を置いています。もちろん、日本語教師もいます。
その理由として、ル・ロゼでは子どもたちに英語以外の母国語を維持して欲しいと思っているからです。その方が生徒たちが弾力性のある勉強をするようになり、非常に重要なことだと考えています。
ル・ロゼを卒業した後にアメリカやイギリスの大学に進学したとしても、就職で日本に戻ったら、そこでは必ず日本語が必要になります。
皆さんも聞いたことがあるかもしれませんが、日本政府は1985年にソーシャルゴールというシステムを立ち上げ、世界各国に日本語学校を作り、日本人と日本語の発達を促しました。そこには、子どもたちに自国の文化を継承してほしいという願いが込められています。
ル・ロゼでも、生徒が母国語の習得を通じて、将来的に帰国する準備ができることと、言語の安定にも役立つことから、母国語の習得を大事にしていきたいと考えています。
原稿:高橋香織(eduJUMP!編集長)、構成:原知子