連載6: ポストコロナ時代の、デジタル活用学習のパラダイムシフト

2.「個別最適な学び」の元祖1 キャロルの学校学習モデル

日本で突然のように注目されているこれらの概念は、実は非常に古くからある概念から出発しています。筆者の専門であるインストラクショナルデザイン的には、全く新しいものではありません(とはいえ、ようやく日本で注目されたことは、良いことだと思います)。

まず、根本的支柱となっている半世紀前の研究をいくつか紹介することから始めたいと思います。

まず最初に紹介したいのは、J・B・キャロル(John B.Carroll)(1916-2003)の学校学習モデル(Model of School Learning)です。

キャロルは、学校の授業における学力差が生じる要因と、落ちこぼれの防止策を研究しました。そして、「能力の差を最小化するために、学習時間の差を活用する」という考え方を提唱しました。

「能力の差は生まれつきの才能もあるよね」といった、成績の差の要因の一つに生まれ持ってのものがあるという声も、医学的には言われたりします。

しかしキャロルは、教育者としてそのような考え方はせず、成績差は、学習課題のの達成のために各人によって異なる必要な学習時間を使わなかったことが原因である、としました。

ある課題を短時間で済ませる子どもと、時間がかかる子どもがいることは、誰もが自らの学校時代に経験してきた、自然なことではないでしょうか。

実際、修得に必要な時間の長さは、科目や得意分野により、一人一人異なるのです。従って一方通行の授業を同じ時間提供した場合、成績差は出てしまうのです。

キャロルの考え方に基づけば、親や教師は、これを能力がない子とみなすのではなく、援助と時間をかける必要がある生徒、とみなすことが大事です。

キャロルはこの考えを、次の学習率の式にモデル化しました。キャロルの考え方に従えば、この分母の数は生徒により異なります。

学校教育において時間割で規定される週●時間、年●時間という科目ごとの標準学習時間についても、個別に調整が必要ということになるでしょう。

学習に費やされる時間(time spent)
学習率(% of learning)= ————————————————
学習に必要な時間(time needed)

分母と分子は以下のようにブレークダウンできます。やや専門的ですが、教師だけでなく保護者にとっても、子どもの学習の定着に必要なことを考えるチェックリストとしても使えるので紹介します。

学習機会・学習持続力
学習率=———————————————
課題への適性・授業の質・授業理解力

学習率の向上には、分母の時間を減らす、分子の時間を増やす工夫が必要となります。

分子:学習に費やされる時間

1)学習機会:学校で割り当てられている授業時間が適切か。
2)学習持続力:学習機会のうち、子供が実際に集中した時間。

分子の1)は、学習課題の内容に比して授業時間が少なければ、課題当たりの時間が足りず、生徒は内容未消化のうちに次に進むことになり、悪循環となり、学習率の低下に繋がります。

また、2)は、難しすぎる、易しすぎる、興味分野でない、という場合は持続力が下がるので、これも学習率の低下につながります。

分母:学習に必要な時間の要素

1)課題への適性:例えばある課題や分野の授業において、課題達成に必要な時間の長短
2)授業の質:教師の授業内容だけでなくテキストの質や関連する資料の内容は適切か(教師の工夫による差)
3)授業の理解力:授業の質の低さを、本人が有する資質が補って理解する力

分母の1)と3)は、生徒により個人差がどうしても出る部分です。

3)の指摘の通り「1を聞いて10を知る」「行間を読む」ことができる生徒と出来ない生徒がいることは否めません。ただしそれは生来のものというよりも、過去の学習の蓄積次第と言えます。

分母を減らし学習率を上げるためには、教師や親は2)に充分な注意を払う必要があります。

以上、1960年代に提唱された、個人差への対応を整理したキャロルのモデルを紹介しました。このモデルは学校教育の在り方に大きな影響を与え、海外では飛び級や留年制度の理論的支柱ともなっています。

ムサシインター 宇野令一郎
ムサシインター 宇野令一郎
慶應大学卒業後、東京銀行に勤務。その後、カナダMcGill大学経営大学院MBAを取得。帰国後、大学設置事務局長を務める。東京のケンブリッジ国際認定校及び国際バカロレア認定校のインターナショナルスクールを経営。熊本大学大学院の教授システム学の講師も務める。
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