連載4: ゼロから分かる国際バカロレア

2.国際バカロレアの基本のキー

 

国際バカロレア(International Baccalaureate、以下「IB」)とは、1968年に設立したスイスを拠点とする非営利団体を指す。

 

当初のIBの目的は、外交官や国際企業の子女など海外を移動しながら教育を受ける生徒のために、世界のどこの大学にも通用する入学資格(ディプロマ)と教育プログラムを構築することで、インターナショナルスクールの教員が中心となってカリキュラムを開発していった。

 

IBの世界的な普及状況は、IBのオフィシャルページのFacts and Figuresで頻繁にアップデートされている。2021年現在、約5500校にそのプログラムが導入されている。今なお世界的に普及している過程にある。

 

IBでは現在以下の4つのプログラムがある。

プログラム名 対象年齢 概要
PYP (Primary Years Programme)  3-12歳 精神と身体の両方の発達を重視。使用言語は何語でもよい。
MYP (Middle Years Programme) 11-16歳 使用言語不問。学習期間は5年だがより短い期間も可。
DP (Diploma Programme) 16-19歳 公式使用言語は英語、仏語、スペイン語。IBからカリキュラムが提供。学習期間は2年。
IBCC 16-19歳 主に就職や専門学校進学を目指す生徒のために社会に出て役立つスキルを習得させるもの

 

これらの全てに一貫した重要コンセプトとして、10のIB学習者像(IB Learner Profile)がある。

 

「探究する人・知識のある人・考える人・コミュニケーションできる人・信念のある人・心を開く人・思いやりのある人・挑戦する人・バランスの取れた人・振り返りができる人」

 

このような学習者を生み出すための教育体系をIBが提供しており、その特徴には様々なものがあるが、ここでは「全人的教育」と「探究型学習」の2つに整理してお伝えしたい。

 

特徴1.全人的教育

 

全人はHolisticの日本語訳となり、ややなじみのない言葉であるが、IB公式ガイドブックである「DP 原則から実践へ」によると、全人的教育においては生徒が各教科の知識や国際的な視点を身につけることに加え、社会に望ましい貢献をするためのスキル・価値観、そして行動する意思を身につけることの重要性に言及している。

 

そしてコミュニティにかかわる責任ある市民となること、人生体験を豊かにしえる芸術や娯楽、スポーツに触れることも、全人的な教育を完全にするうえで重視している。

 

つまり地球市民として、幅広い視野と豊かな人間性を有する人物を育成するカリキュラムということである。これは後述するIBの体系をお読みいただければ理解頂けるものと思う。

 

特徴2.探究型学習

 

探究型学習という言葉もあまりなじみがないが、英語では“Inquiry-Based Learning”である。分かりやすくするためにあえて表現すると、日本でなじみのある記憶中心の学習の対極にある学習である。

 

記憶中心学習においては、その評価基準は「どれだけ知っているか」であるから、試験もこの評価基準に沿って作成される。しかし19・20世紀と比べ入手可能な情報量が圧倒的に増加した現在では、大量の知識を「どれだけ知っているか」はもはや以前ほど重要ではない。

 

探究型学習においては、大量の知識を記憶することよりも、好奇心をもち、ある事象を深く探究する行為によってこそ、そこで得た概念や知が実社会で活用可能となる、という考えに基づいている。

 

このアプローチでは、IBの公式ガイドの日本語版「国際バカロレア(IB)の教育とは?」にも記載があるが、探究→行動→振り返りのサイクルを通じ、学習者が独りまたは協働で学ぶ形が基本である。

 

まずチャレンジに満ちた課題が提示され、それを探究し、教え合ったり発表したりという行動があり、どのような学びがあったのか、今後のために足りない点は何かなど、自ら批判的な振り返りを行う、というプロセスを繰り返す。この過程で教師の役割として必要な知識の伝達というティーチングに加え、フィードバックや支援が重要となる。

 

多くの皆さんの経験の通り、記憶によって得た表面的な事実の羅列は忘れるもので、実社会での応用性も薄いものが多い。一方で学習者の意欲に基づいて探究して学んだものは、後々残る。

 

なおこの考え自体はIBに新しいということでは決してないく、教育学的には構成主義(Constructivism)という古い概念に基づいている。

 

なお探究型とはいえ、IBにおいては学習者の興味に基づくものだけを学ばせるわけではなく、また、生徒の探究を放置するわけでもない。Structured Inquiryという考えに基づき、教師が予め学習内容や探究のプロセスを設計した上で、教師からの問いかけを発端として生徒が探究を開始し、考えさせ、議論させる形をとっている。

 

その意味では当然生徒が身に着けるべき体系と教育目標は存在する前提になっている。

 

保護者にとって注意すべきなのは、3歳から12歳をカバーするPYPにおいて、IBはカリキュラムを提供しているわけではなく、フレームワークの提供にとどめている、ということである。よく言えば、各学校のクリエイティビティがフルに発揮することが可能なプログラムではある。

 

しかし、フレームワークの提供に留まるがゆえ、探究テーマの偏りの無さや、年齢相応に身につけるべき英語・算数・理科などの基礎学力がどの程度、探究の過程で織り込まれているかなどは、学校により差が出る可能性がある。

ムサシインター 宇野令一郎
ムサシインター 宇野令一郎
慶應大学卒業後、東京銀行に勤務。その後、カナダMcGill大学経営大学院MBAを取得。帰国後、大学設置事務局長を務める。東京のケンブリッジ国際認定校及び国際バカロレア認定校のインターナショナルスクールを経営。熊本大学大学院の教授システム学の講師も務める。
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