広島に新規開校!JINISの理事長が語る『海外進学する前に身につけたいこと』
‐‐即満席!注目の欧州ボーディングセミナーより
2022年9月25日、港区六本木にある国際文化会館で、セミナー『欧州のトップスクール元校長に聞く、ボーディングスクールの魅力』(主催:次世代教育環境開発)が開催されました。当日は、海外留学などを進学を検討している家庭を中心に60人超が参加。今、注目を集める欧州ボーディングスクールの魅力に迫る講演に、熱心に耳を傾けていました。
eduJUMP!では、即満席となった同セミナーの模様を3回に分けてレポートします。第3回目となる今回は、広島に2020年に開校した”一条校”のボーディングスクール、神石インターナショナルスクールの理事長である末松弥奈子氏のお話で『海外進学する前に身につけたいこと』をお届けします。
末松 弥奈子 氏
学校法人神石高原学園 理事長
株式会社ジャパンタイムズ 代表取締役会長
息子がル・ロゼで経験している全てが眩しかった
15年前、私の息子が小学3年生(Class 9)の時にスイスにあるボーディングスクール「ル・ロゼ」に入学しました。その当時は、全校生徒の中で日本人はたった8名しかいませんでした。
今でこそル・ロゼにも日本人生徒が増え、学年によっては10%ルール*に触れる可能性があるとも言われていますが、当時は、海外ボーディングスクールに入学する日本人は非常に稀な存在でした。
私たちは、ル・ロゼに入学するまで、あまり準備をせず、「もし息子が学校や生活に馴染めなかったら、いつでも日本に戻って来れば良い」と楽観的に考えていました。
入学後、息子から学校で受けている授業や課外活動の様子を聞くたびに、私にとっては驚きと感動の連続でした。当時の私には、彼がル・ロゼで経験する全てが新鮮で眩しく、羨ましいものでした。
例えば、一人ひとりに専用のガーデンが与えられ、そこで花や野菜を育てたり、夏と冬で違うキャンパスに移動して、季節に合わせたスポーツやアクティビティを楽しんだり、ピアノ以外もドラムやバイオリンなどあらゆる楽器をプライベートレッスンで学べたり。
結局、息子は当初の思惑を良い意味で裏切り、ル・ロゼにしっかりと馴染んで10年間の学生生活を送り、イギリスのサセックス大学へと進学しました。
この通り、息子は学校や生活にはしっかりと馴染むことができましたが、ただ一つ問題がありました。息子が大学に進学するまでの過程で、私たちは現地での教育成果について、当初の認識を改めることになりました。
*10%ルール:ル・ロゼでは、人種と国籍の多様性を担保する為、同学年に同じ国籍の生徒が10%以上在籍することができない。
理数系だと世界トップレベルの教育を提供している日本
ル・ロゼに息子を通わせるまでは、私は漠然と「日本の教育は遅れている」と思っていました。
しかしながら、PISA(Programme for International Student Assessment:学習到達度調査)の結果を見ると、日本は理数系ではトップレベルの教育を提供していることを知りました。
また、息子はル・ロゼに入学してから日本語習得において非常に苦労しました。
息子は学校で週2回の日本語の授業を受けていましたが、学年相当の日本語の習得はできず、特に漢字能力に関しては高校生の段階で日本の小学3年生レベルで止まっていました。
IB(国際バカロレア)の日本語試験では、夏目漱石や太宰治などの有名な日本文学を読み、自分の考えを論述する必要がありましたが、息子は日本語を読むことができても、その背景にある日本の文化や生活習慣をほとんど知らない為、最終的に日本語はIBスコアをあげるための戦力にはならず、日本語ではなくフランス語を選択する結果になりました。
結局、私は早期に子供を海外留学させることのリスクを全く知らなかったのです。当時、私が信じていた教育と、海外留学を通して実際に得られた子供の教育成果には、正直なところ乖離がありました。
海外留学は、メリットとデメリットのトータルで考えなければいけなかったのです。
将来的には、英語とフランス語をビジネスレベルで習得していると仕事には困らないかもしれません。しかし、我が子の教育を振り返った時に、日本の教育の良さと将来の海外留学の準備ができる学校があれば、絶対に通わせたかったという後悔がありました。
我が子の教育で実現できなかったことに対する後悔から、海外に進学する日本人のための、一条校のボーディングスクールを作ろうと思いました。
そして、縁あってドラゴンスクールの元校長John先生とル・ロゼの元校長Gray先生の二人にアドバイスをいただきながら、2016年から神石インターナショナルスクール(以下、JINIS)の設立の準備をすることになりました。
日本のジュネーブに一条校のボーディングスクールを
JINISでは、日本人とインターナショナルの講師の2名で1クラスを担当しています。カリキュラムは、文科省認定カリキュラムとIPC(International Primary Curriculum)を採用しており、カリキュラム上重なっているところは英語で提供しています。
日本語と英語の言語割合は、50%ずつ。完全な欧州スタイルではなく、日本のハートを大切にしたいと思っており、アカデミック偏重ではなく、チャレンジマインドも育てたいので、スポーツやアートのアクティビティも充実させています。
スクールの場所は、広島の山間部にあります。
車で1時間ほどの距離にスキー場があり、西に行くと広島市、東には倉敷市があります。広島市には歴史、文化、芸術、スポーツなどがあり、倉敷市には日本で最初の西洋美術館があります。
ここで体験できるアクティビティの幅広さを考えると、スイスのジュネーブのような環境だと思っています。
スクールのキャンパスは、東京ドーム17個分の広大な敷地に所在しています。
敷地内には、牛のいるファーム、野菜を育てるベジタブルガーデン、スポーツフィールド、クラブハウス、先生やアーティストが住むヴィレッジエリア、日本庭園などがあります。
スクールのキッチンでは、生徒がベジタブルガーデンで育てた野菜や、飼育している牛から絞った新鮮な牛乳をふんだんに使用した料理が提供されます。
JINISを卒業する生徒の学習到達については、卒業時に英検準2級〜2級取得(CEFR A2レベル)と漢検5級(小学6年生修了レベル)の取得を目指しています。。
もちろんアカデミックな成功だけではなく、日本の伝統的な価値観を尊重し、自然への敬意を払える、人間力を持った人材を育成したいと思っています。
【プライベートレッスン】
音楽では、ピアノやバイオリン、チェロ、お琴、ドラムなど。スポーツでは、ゴルフや乗馬、ボルダリング、空手、総合格闘技、バレエ(予定)など
【スクールトリップ】
禅寺での修行や田植え、広島市で平和教育、ホテルでマナー講習、しまなみ街道でサイクリング、瀬戸内国際芸術祭訪問、北海道にスキーツアー など
【欧州旅行】
海外ボーディングスクールの入学準備として現地校の訪問やサマースクールに参加。希望があれば、個別に志望校でのインタビューとアセスメントにも参加
日本のハートを持って、ここから世界へ
私は、日本の人口減少が著しい中、私たちはこれまで海外に目を向けすぎていたのではないか、と問題意識を抱いています。私たちの子供世代が、日本の魅力を世界に発信していかないと、日本は世界の進化についていけない、ガラパゴスになってしまいます。
私たちは、日本のパスポートを持つ外国人を育てたいのではありません。グローバルで通用する日本人を育てたい、そういう思いでこのスクールを立ち上げました。
私たちの学校生活では、子供たちが日本で生活していたら触れるであろう文化や体験を、小学6年間でしっかりと経験し、自分のものにできるように濃縮しています。生徒たちには、ここで日本についてしっかりと学んだ後、日本人のハートを持って、世界に羽ばたいてほしいと願っています。
原稿:高橋香織、構成:原知子(eduJUMP!編集部)