英国名門校・Dragon School元校長が教える『学校選び10の心得』
‐‐即満席!注目の欧州ボーディングセミナーより
2022年9月25日、港区六本木にある国際文化会館で、セミナー『欧州のトップスクール元校長に聞く、ボーディングスクールの魅力』(主催:次世代教育環境開発)が開催されました。当日は、海外留学などを進学を検討している家庭を中心に60人超が参加。今、注目を集める欧州ボーディングスクールの魅力に迫る講演に、熱心に耳を傾けていました。
eduJUMP!では、即満席となった同セミナーの模様を3回に分けてレポートします。第一弾は、インターナショナルスクールやボーディングスクールの新規開校が相次ぐ今だから知りたい『学校選びの心得』について。英国トップスクールである名門・ドラゴンスクールの元校長ジョン・ボー氏のお話でお届けします。
John Baugh(ジョン・ボー )氏
The Dragon School, Oxford前校長(2002年〜2017年)
St Andrew’s School, Turi, Kenya理事(2018年〜)
大事なのは学校名ではなく、目の前にいる我が子
英国にはたくさんの学校がありますが、学校を選ぶにあたって最も重要なことは、目の前にいるあなたの子供の興味・関心です。
あなたの子供の長所は何ですか?どんな趣味や娯楽が好きで、どんなスキルを持っていますか?有名な学校の名前だけに翻弄されず、あなたの子供の興味・関心と未来に真剣に向き合ってください。
世の中には、学校選びを手伝ってくれる留学エージェントがたくさんいます。しかし、彼らの中には、ある学校に生徒を入学させた見返りとしてお金を受け取っている人もいて、必ずしもあなたの子供の利益を最優先している訳ではありません。
私は今日、具体的な学校の名前に言及するつもりはありません。私はあなたに学校を売り込むためにここにいるわけではないからです。
あなたの子供にとって最適な学校はどこなのかが一番大切なことなのです。そして、学校に通うのはあなたではなく、あなたの子供であることを忘れないでください。今回は、あなたが学校選びをするにあたって、心に留めて欲しい10の心得を紹介します。
学校選びの心得①:Academic(アカデミック)
-最終的な学業成績
英国では、政府が学校ごとの学業成績(IBやAレベルの試験結果や進学実績等)の結果を発表しています。その結果を見て、学校を選ぶというのも一つの選択肢です。
しかし中には、超一流学校にも関わらず、学校のポリシーとして政府に学業成績結果を提出していない学校もあるので注意が必要です。ランキングを見る前に、そのランキングにはどのような学校が参加しているのかについて、情報を調べた上で確認しましょう。
-学校の付加価値
英国の超一流校は入学前に学力的に非常に厳しい選抜を行っています。そのような学校は、意図的に優秀な子供を選んで入学させているので、もちろん卒業後も社会的に価値のあるトップレベルの人材になることが期待されます。
多くの学校は、生徒が入学した後に”付加価値”と呼ばれる指標を持っています。付加価値とは、子どもが学校に入った時点から、その子の潜在能力や認知能力、そして最終的に何を達成したかに基づいて、どの程度その学校が生徒の育成に貢献したかを示すものです。
私が校長として常に関心を持っていたのは、単に賢い子どもを成功させるだけではなく、全ての子どもに付加価値を与えて成長させることでした。
あなたが学校を訪問する際には、ぜひ、学校の付加価値について尋ねてみてください。中には、優秀な子どもたちだけを選抜しているわけではないのに、1年後には生徒たちの学業成績を非常に高いレベルまで引き上げている非常に優れた学校もあります。
-カリキュラム
採用されているカリキュラムについても考えなければなりません。ケンブリッジカリキュラムのAレベルは、英国で一番有名なカリキュラムです。しかし、英国にはIBカリキュラムを採用している学校も多くあります。
学校で子供の興味に合うような科目が教えられているか、指導者や経営者、教師の資格について調べてみるのも良いでしょう。
-授業スタイル
学校はどのようなスタイルの授業を進めているのでしょうか。
教師が板書し、生徒がそれを書き写し、覚えて、次の日に先生に伝えなければならないようなスタイルが主流なのでしょうか。それとも、生徒が主導して積極的に学ぶ方が良いのでしょうか。
学校を訪問し、授業を見学してみてください。あなたの子供に合う教授法がきっとすぐに分かりますよ。
学校選びの心得②:Location(学校の所在地)
-都市型か郊外型か
都市型の学校と郊外型の学校のどちらを希望するかということも重要な選択の一つと思われがちです。
都市に学校があると、遊び盛りの子供たちが楽しく過ごせる施設があるという利点がありますが、一方で子供にとっては危険な誘惑であるパブやバー、クラブもあります。
郊外に学校があると、美しい庭園や畑、木々があることが素晴らしく感じるかもしれませんが、キャンパスは孤立していて、子供がやりたいことから遠く離れているかもしれません。
結局、どちらを選んでも一長一短なので、学校の所在地は適切な学校を見つけるための意思決定の最後の方に置くことをお勧めします。
-空港へのアクセス
子供が小さいうちは、一人で長距離を移動させたくないので、空港から学校までの距離はとても重要だと思われるかもしれません。
ただ、多くの学校は学内で旅行サービスを提供しており、飛行機の予約や交通手段の手配をするオフィスがありますし、子供がシニアスクールになれば、自分で電車に乗って空港に行き、独立して旅行できるようになるでしょう。
学校選びの心得③:Single sex or mixed?(共学か男女別学か)
共学か男女別学か。これが親御さんにとって一番の懸念かもしれません。
しかしながら、この部屋を見渡してみても分かる通り、世界は男女共学の世界です。男性と女性は一緒に働き、学んでいます。男女共学だと、子供たちにとって異性は謎めいた存在ではなく、素晴らしい友情も自然に生まれるでしょう。
もちろん子供の適性によりますが、大学に入ってから、または社会に出てからストレスが無い選択をお勧めします。
学校選びの心得④:School Values(学校の価値)
どの学校にも価値観や理念があります。
例えば、尊敬、優しさ、勇気―。学校が掲げる価値観は多種多様ですが、あなたが学校を訪問した時、その価値観が実際に学校で実践されていると感じられるでしょうか。もし彼らが優しさを重要な価値観であると掲げるなら、その学校の校長は優しさのモデルになっているかについて確認しましょう。
学校にとって価値観や理念は非常に重要です。それは使命に近く、学校を前進させる原動力です。子供達の学校生活や人生の基礎となるものなのです。
学校選びの心得⑤:Quality of Care(ケアの質)
保護者が学校選びで見落としがちなことの一つが、ケアの質です。その学校は、本当に一人ひとりの子供の心身のケアに力を入れているのでしょうか?
大事なのは、もし自分の子供が学校で不幸になった場合、学校はそれを解決するための明確な手順や仕組みを整えているのかどうかということです。
学校は不幸な子供を支援する計画があるのでしょうか。例えば、資格を持ったスクールカウンセラーは学校に常駐していますか。現在、英国内の多くの学校では、子どもたちのために専門的な心理的サポートを行っています。誰もが人生を簡単に過ごせるわけでは無いからです。
学校は、子供が抱えている問題を保護者にその都度伝えてくれるでしょうか、それとも保護者は自分の子供に何か問題があったということを学期末にいきなり知ることになるのでしょうか。
人生はいつも順調とは限りません。山あり谷ありなのです。学校は安全で幸せな場所であるという前提があるからこそ、子供達はそこで学び、成長できるということを忘れないでください。
学校選びの心得⑥:Extra Curriculum Activities and Club(課外活動やクラブ活動)
ボーディングスクールは課外活動が非常に充実しています。
授業の合間に多くの空き時間があり、生徒たちは様々なことに挑戦できます。趣味や娯楽、クラブ活動、新しいことを学ぶなど、生徒たちは面白いと思うことに積極的に取り組んでいきます。
しかし、それらの課外活動があなたの子供の興味・関心に合致しているものなのかどうかについて、必ず意識してください。子供が暇な時に、何もすることが無いのは寂しすぎるからです。
学校選びの心得⑦:Safety and Security(安全性とセキュリティ)
学校の安全性とセキュリティについて考えていますか?
もちろん、お子さんが住む寮そのものが安全であることを望みますが、敷地内に侵入者や不審者が入り込むことがないかについて確認しましょう。
学校は明確な生徒の保護対策を練っている必要があり、全ての教師、スタッフ、生徒がそのポリシーを理解し、問題を見つけたときに報告する機関があるべきです。
また、最近では特に幼い子供にとっては、デジタル・オンラインの安全性についても重要です。インターネットは安全な場所ではないので、学校が子どものオンライン時間を明確に管理していることが望ましいです。
あなたの子供は、ボーディングスクールに入学すると、あなた抜きで生活することになります。学校は安全衛生の問題をきちんと把握している必要があります。なぜなら、それは文字通り生死を分ける問題だからです。
学校選びの心得⑧:Facilities(施設)
英国の私立学校は、施設面でも激しい競争を繰り広げています。
大きなスポーツアリーナ、サイエンスラボ、リサイタルホール、寮など、まるで5つ星ホテルのような施設を持つ学校もあります。
一方で、そのような学校には、本来なら教育の質に還元されるはずの莫大な費用が、より大きく、より豪華な施設を建設するために使われていることも忘れないでください。豪華な設備や施設はあなたにとっては魅力的かもしれません。でもあなたの子供にとってはどうでしょうか?
もし、あなたの子供は水泳が好きではないとしたら、大きなプールは必要ありません。それは音楽や演劇、サイエンスについても同じことが言えます。学校があなたの子供のために必要なものを提供しているかどうかを確認し、派手で新しい施設に誘惑されないようにしましょう。
学校選びの心得⑨:Type of Boarding(ボーディングの種類)
学校はどのようなボーディングスクールなのかを考える必要もあります。
ボーディングスクールの中には、通学(デイスクール)も提供している学校、生徒の大半が英国出身なので週末は実家に戻ってしまう学校、そして多様な国籍の生徒が混在しているので大半の生徒が週末もずっと寮にいる学校があります。
あなたの子供が週末に寂しい思いをしないためにも、なるべく同じようなバックグラウンドの生徒が多い学校を選んだ方が良いかもしれません。
また、学校にいる留学生の出身国についての情報も集めましょう。特定の国から来た生徒がその学校の大多数を占めていないか調べましょう。様々な国から何人かずつ入学している学校が理想的です。
学校選びの心得⑩:Purpose of Education(教育の目的)
親として、あなたの教育の目的は何ですか?
もしあなたの子供が幸せで、充実し、成功し、バランスの取れた、自信に満ちた若者になれたら、自分や家族、他人の命を守ることに貢献し、良い人生を送ることができる人になります。
もし、あなたが「オックスフォード大学に行け」とか、「ハーバード大学に行け」とか言って、それで子供の教育をした気になってしまうと、あなたの子供は幸せな成功者ではなく、ストレスの多い、不幸で窮屈な人になってしまうかもしれません。
もしあなたが今、8歳の子供と一緒に学校を探しているのだとしたら、12年先を思い描く必要があります。そして、その12年の間に世界、政治、経済は劇的に変化するのです。
保護者の皆様にお願いしたいのは、もし今何か明確な計画を立てていたとしても、それを柔軟に変更していく覚悟を持って欲しいということです。親子ともに常にオープンマインドで、柔軟な思考を持ち続けてください。最終的には可能な限り最善の決断を下し、それが正しい道であることを祈りましょう。きっとそうなりますよ、ご清聴ありがとうございました。
原稿:高橋香織、構成:原知子(eduJUMP!編集部)