暮らしながら学びを創造
SHIMOKITA COLLEGEの挑戦
再開発が進む東京・下北沢にある話題の施設「SHIMOKITA COLLEGE」(シモキタカレッジ)。多様性豊かな高校生・大学生・社会人が共に生活し、暮らしの中で互いに学び合い新たな教育的価値を創造する居住型の教育施設として、2020年に誕生しました。『学寮+リベラル・アーツの学び』という新しい教育のカタチについて、運営するHLAB理事の高田修太さんにお話を伺いました。
HLAB理事・COO 高田 修太 氏
東京大学工学部、同院工学系研究科修了。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校にて学生研究員として滞在。在学中の2011年、HLABを小林亮介氏(代表理事)と共同創設。サマースクール事業の立ち上げに携わる。大学院修了後はBoston Consulting Groupにて、通信・デジタル関連、ビッグデータ関連の経営戦略策定をコンサルタントとして支援。非営利組織と企業との両方の経験を活かし、2017年HLABに復帰。2019年より現職。
ハーバード大の学生寮がヒント
-HLABはどんな会社ですか?
HLABは、「異なる人生を歩む人々が、その違いから刺激を受け、学び、共創する」-。そんな社会の実現に向けて、コミュニティをデザインしています。具体的には、さまざまなバックグラウンドをもつ学生や若者が、寮生活を送りながらリベラル・アーツの幅広い学びを進める中で、多様な考えに出合い、違いに気付き、身近なロールモデルとして刺激を与えあう機会を提供しています。
原点は、立ち上げメンバーである代表の小林亮介が経験したハーバード大学の学生寮にあります。在籍中は、学年に日本人が一人という特殊な環境で過ごしたそうですが、その特殊な環境だったからこそ得られた多様性と刺激あふれる学びを体験。帰国後、「この学びを日本でも再現したい」との思いに賛同したメンバーでHLABを立ち上げました。
-高田さんは、どうしてHLABを立ち上げたのですか?
私は、開成高校から東京大学に進学しました。開成高校では、多くの同級生や先輩が東大に進学するのですが、私自身進学したのちに「進路について、ゆっくり真剣に考えて対話したり、知ったりする機会が少なかったな」という問題意識を抱くようになりました。大学進学後に出会った周りの友人たちにも相談してみたところ、同じような意識を持つ友人が多く、都内の進学校なら「東大を目指しなさい」、地方の進学校なら「地元の国立大を目指しなさい」と、親や教師が敷いたレールの上を歩んでいたという声や、例え自分の力で進路を真剣に考えようと思っても、「情報が少なかった」「選択肢を知る機会すら限られていた」という声もよく耳にしました。
学生時代に置かれた環境によって人生が左右されるのであれば、多感な時期に、多様なバックグラウンドを持つ友人や先輩に出会うことができれば、選択肢が広がるのでは―と思ったのがきっかけです。また、寮生活という密度が高く、ランダムなコミュニケーションができる環境であれば、個々が持つ既成概念を『ぶっ壊してくれる』という期待もありました。
生活するから見えてくる“未知の世界”
-シモキタカレッジについて教えてください
2011年にHLABを立ち上げた当初、「学寮(カレッジ)生活を中心としたリベラル・アーツ教育」を再現することを目指し、まずは、サマースクールの開催からスタートしました。サマースクールは、高校生を対象とした1週間宿泊型のプログラムです。年齢や境遇が近いけれど、自分と全く違う考えを持っていたり、自分の知らない世界を見せてくれたりする-。そんな仲間と国境や地域、世代を越えて集い、寝食を共にします。まさに、未知の世界を身近に感じる瞬間と学びが詰まった人生を変えることのできる体験ができるのがサマースクールです。スタート当時は、東京都のみの開催でしたが、現在では東京都、長野県小布施町、宮城県女川町、群馬県の4拠点で開催。これまでに、延べ3,000人以上の高校生・大学生が参加しました。
そして、学びの場を約1週間という短期ではなく、より長期の「居住型」へと移行し、住みながら学ぶ居住型教育施設(レジデンシャル・カレッジ)としてオープンしたのが、『SHIMOKITA COLLEGE』です。運営には小田急電鉄、まちづくり事業を展開するUDS、HLABが関わっていますが、教育の場づくりに関してはHLABが担当しています。
シモキタカレッジは、多様性を認める土壌がある下北沢の街全体をキャンパスとして活用しながら、高校生、大学生、若手社会人が共に生活する中で、互いから学び合う場です。年齢や経験に合わせ、高校生向け、大学生以上向け、社会人向けの計3つのプログラムがありますが、共通しているのは、「共に暮らす中で、お互いから学び合うために必要な環境」を提供しているという点です。
具体的には、多様な仲間との居住を通じ、学びあい、成長しあう場づくりのための”仕掛け”を用意しています。例えば、委員会や分科会といったカレッジの文化づくり、ハウス活動、下北沢の街との連携プロジェクトなどが挙げられます。自らの興味関心に応じた活動に参加することで、所属するプログラムの枠を超えて、時には街へと活動の場を移しながら、多様な価値観に出合い、成長する機会としていきます。
①カレッジ委員会・分科会
シモキタカレッジ内の文化づくり。学校でいう生徒会のようなイメージ。図書委員会、トークイベントを企画するイベント分科会、PR活動(フリーペーパー作成など)委員会、暮らし方を考えるカレッジライフ委員会などがあり、コミュニティを形成するために活動している。それぞれに予算があり、社会人チューター(学びの場づくりに協力するために選考されたメンバー)と共に運営する。
②ハウス活動
高校生、大学生、社会人約10名程度で1グループの「ハウス」という単位での活動。定期的な振り返り(リフレクション)や、ハウスでの食事、イベントを自ら計画して実施してく。
③イマーシブ・プログラム
下北沢に「どっぷり浸かる」という意味のプログラム。下北沢の街・人々と連携してプロジェクトに取り組む。地域通貨「まちのコイン」を活用したイベントやカレッジ文化祭、若手アーティストを支援する「新世代賞」の共同運営など多岐に渡る。
-どうすればカレッジ生になれますか?
シモキタカレッジに居住するには選考があります。選考は、エッセイ(志望動機)とオンライン面接です。選抜基準は、シモキタカレッジが単なる居住の場ではなく学びの場であることを理解しているかどうかです。具体的には、希望者の知的好奇心や情熱、シェアの精神を大切にしています。
大学生や社会人には最長2年の居住期間を設けています。組織には新陳代謝が重要だと考えていますので、カレッジ生には「1年目はチャレンジ、2年目はリーダーシップを発揮する年」と伝えています。
一方、高校生には学期単位での居住を推奨しています。長期間、親元離れてシモキタカレッジから学校に通うのは、心理的ハードルが高いと思うからです。ただ、高校生という多感な時期にシモキタカレッジで自立し、Social Emotional Learning(社会性と情緒に関する学び)を経験することは、その後の人生にとても重要なので、「少しの期間でも良いから家を出てみよう」と伝えています。
多くの人生に触れて成長していく
-実際にカレッジ生はどのように成長していきますか?
カレッジ生、特に高校生には、インタビューワークを積極的に行ってもらっています。カレッジに住んでいる年齢も所属も様々な者同士で、自分の考えをしっかり持った上で、色々とインタビューしてもらうのです。
これは、ピア・メンターシップ(世代の近い人から学び合う)というHLABの学びの精神です。HLABがこれまでに培ってきたコミュニティや支援者などがゲストとして、日々訪れており、カレッジ生はシモキタカレッジに住んでいる間に、多くの人生に触れ、学び、刺激を受けます。
カレッジ生活を経験したカレッジ卒業生からは自己肯定感やコミュニケーション能力が上がったという声を多数いただいています。また、高校生のカレッジ生からは、学校の先生から「変わったね。自分の意見を言うようになったし、積極的に発言するようになった」と言われたという嬉しい報告もありました。
シモキタカレッジには食堂がありますが、土日祝は自分達でご飯を準備する必要があります。自炊や洗濯を通して、生徒の中には、「家事って無償労働ですごいことだよね」と家族にありがたさを感じ、感謝の言葉を伝えたという声もありました。
偶発的な時間で価値を創造してほしい
-今後の展望について教えてください
現在、シモキタカレッジで暮らしているのは80名。社会人が20名程度、大学生が50名、そして残りが高校生です。香港、インド、アメリカ、日本、カナダなど出身国も様々。留学生や海外大学在籍者もいて、まさに多様性の集まりです。HLABのプロジェクトを通して自分の視野やコミュニティを広げるだけなく、色々な人と寝食を共にすることで、偶発的な時間や余白の時間で新しい学びや価値を生み出すことができることを学んでほしいと思っています。HLABのプログラムは、あくまでもその場を提供しているに過ぎません。
下北沢というカオスで多様性のある街も魅力の一つです。街全体のフットワークが軽いため、地元や企業ともプロジェクトを始めやすい環境と言えます。カレッジ生には、この特別なコミュニティが生み出す「学び」を体験して欲しいです。
HLABとしては、今後、他エリアでの展開や学校と連携した展開も考えています。今後も多くの地域、学校や企業ともコラボレーションして拡大していければと思っています。
画像提供:HLAB
原稿:高橋香織、構成:原知子(eduJUMP!編集部)
SHIMOKITA COLLEGE
東京都世田谷区代田5-20-16
URL https://shimokita.college/