「やりなさい」は子どもに逆効果
大人理論の間違いと2つの大失敗
非認知能力の重要性を語り、多くの著書を持つボーク重子さん。アメリカ人の夫との間に生まれた娘、スカイさんは2017年に知力、コミュニケーション力、自己表現力、特技など総合的に競い合う「全米最優秀女子高生(The Distinguished Young Women of America)」において最優秀賞に選ばれました。
母であるボーク重子さんは、一度も「勉強しなさい」と言わず、何より非認知能力を育てたことが子育ての成功だったと話しますが、今やコロンビア大学を卒業したスカイさんの子育てを今振り返り、改めて大事なポイントを伺いました。(2回目/全4回)
【連載(全4回)】
Vol.1 英語は非認知能力+認知能力で上達!
「なぜやるの?」に答えられない大人の論理の押し付け
子育てをするときに「何をやらせようかな」と考えたこともあります。実は、2回大失敗しているのです。今回は、私の失敗談をお話ししましょう。
まずは、日本語です。
夫がアメリカ人ですが、アメリカで生まれ育った娘のスカイに日本語を話せるようになって欲しかったのです。
「日本のパスポートを持っているのだから、日本語は読めて、書けて、話せるようにならないとね」と思い、私が最初に教え始めました。日曜日30分と決めてスタートしたのに、25分はケンカして、最後の5分になってやっと始まる、みたいな日々。
まだ3、4歳でしたね。その後も続けてやってみたのですが、全く進まない。
「なんでやらないの?」と聞くと、「だって必要ないもん!」と言われました。
私「でも、ママと日本語で話すでしょ?」、娘「でも通じているから必要ない。周りに他に日本語話す人いない」と。それを言われたら「確かにそうだ」と思ったのです。
「日本のパスポート持っているから」と言っても、それは子どもには通用しませんよね。大人の論理に過ぎないのです。
押し付けバイリンガルは危ない落とし穴
次に、日本語学校に行けばいいかなと思って行かせたのですが、やはりアメリカの幼稚園と学び方が全く違う。娘の幼稚園は、いろいろなコーナーがあって好きなところに行って自分のペースで学べる。寝っ転がって勉強しても、本を読んでいてもいいわけです。アメリカの学校ではやらせるのではなくやりたくなるように設定する、という方法です。
環境が、自ら主体的に行動できるようにするのです。
ところが、日本の幼稚園に行ったらいきなり「起立、礼、着席」です。机がきちんと並んでいる。そこには規律を守ることを自然と学ぶ素晴らしがあるのですが、あまりにも娘の幼稚園と真逆で、アメリカと日本の学び方で切り替えが必要になりました。
大人でも“切り替え”するのは難しい中で、4歳の子どもに切り替えってできるのだろうか、切り替えさせることの意味は何なのだろうか、と自問した結果、まずは認知と非認知能力を一緒に育成することを目的とする娘の幼稚園の指導法に一本化することに決めました。
そこで「日本語ができなくなったらどうしよう」という懸念はありました。でも、「基本はできているから、あとは本人の主体性に任せよう」と思ったのです。
娘と私の間で会話はできたので、とりあえずひらがなが読めるようになったところでやめました。やめて良かったと思っています。
だって、日本語っていうのは、ママとケンカしてイヤイヤやるもの、と思わせるところだったし、日本語を大嫌いな娘を育てることになったかもしれないからです。
その後、13歳の時に娘は日本に1年間留学したのですが、その時日本語に目覚め、アメリカに帰ってきてからは自ら第2外国語に日本語を選び、高校4年間、ずっと専攻しました。大学に行ってからも日本語を学んで、日常会話には事欠かないくらいの日本語力は自分で身につけました。
そして何より日本が大好き。いつか日本で働きたいと言っています。それを聞くたびに、大人の論理を押し付けなくてよかったと思うのです。
「嫌い」なことをやめさせる決断
もう1つの失敗が、ピアノです。
私は幼い頃ピアノを習っていたのですが、やめてしまって楽譜も読めなくなってしまいました。だからこそ「やっぱり女子だったらピアノがいいな」と思い、張り切ってベビーグランドピアノまで購入しました。今や長い間、誰も触ったことがない、我が家で一番高い家具です。
早速ピアノ教室に通い始めたのですが、ピアノは5、6歳でも毎日50分くらい練習をする必要がありました。すごく嫌そうな顔をして3年間くらいは頑張っていました。
「スカイちゃん、好き?」と聞くと、「……キライ」と。
子どもって、1日の半分は睡眠時間ですよね。
そう思うと、子どもにとっての1時間ってとても貴重。そんなやりたくないことのために1日のうちのその貴重な時間を使うって、私だったらどうだろう、と考えました。そりゃ、いやですよね。しかもママにやらされているのですものね。
確かに、ピアノで生計を立てられる人もいますが、そこまでにさせたいわけでもない。好きならいいけれども、嫌いなのにスキルだけ身についても使わないし、本当に意味がないなと気づき、やめさせる決断ができました。
私がこうした子育ての失敗経験から学んだのは、本当に子どもに伝えるべきことが何なのかということでした。
そこで、私が実際に子育てで大事にしたのは“モデリング”です。なぜなら子どもは「言われたから」学ぶのではなく、親がやっていることや生きるプロセスを「見て、真似して」学んでいくからです。教えるのではなく「やってみせる」ことをモデリングと言いますが、非認知能力の育成の基本となっています。
次回は、その“モデリング”とは何かをお話しします。(vol.3へ)
著者:岩辺みどり【ほかの記事を読む-過去記事】