ビジネス書『いくつになっても恥をかける人になる』では、日本人の意識に根深く潜む「恥」の感情を分析。
恥を受け入れることで、よりチャレンジングな自分へと高めるヒントが満載の話題作です。
この恥へ向き合い方を、教育の現場に置き換えたらどうなるのか。
著者である恥研究家・中川諒氏と日本の教育を考える「教育ガラガラポンプロジェクト」の代表であり、電通クリエイティブ・ディレクターの福田崇氏が対談。
「恥と教育」の関係性について考えました。
Part1 恥とは何か‐『いくつになっても恥をかける人になる』から考える
Part2 日本の教育が植え付けてきた“恥”からの解放
プロフィール
中川 諒氏
株式会社電通 コピーライター・恥研究家。慶應大学卒、広告代理店に入社。希望のクリエイティブ局に配属されなかった経験と、幼少期の海外体験から、恥を研究。2021年6月に『いくつになっても恥をかける人になる』を刊行。オンラインコミュニティ恥部(ちぶ)主催。
Twitter https://twitter.com/ryonotrio
インスタ https://www.instagram.com/ryonotrio/
福田 崇氏
株式会社電通 クリエイティブ・ディレクター。開成高校、東京大学卒。日本の教育をさまざまな観点から考える団体「教育ガラガラポンプロジェクト」代表。
理想と現実のギャップから生まれる“恥”
客観的に捉え、“恥”をプラスに
福田:中川さんの著書『いくつになっても恥をかける人になる』は、ご自身が恥を克服した経験をベースに、恥について分析し「恥をどう受け入れるか」を解説されています。
この恥という感覚を客観的に分析できたのは、中川さんの国際的なバックボーンが影響していると思うのですが、なぜ、恥を研究しようと思ったのですか。
中川:僕は日本で生まれて、6歳まではエジプトのブリティッシュスクールに通っていました。日本人がほとんどいない国際色豊かな環境で育ったため、恥を客観的に捉えることができたのかもしれません。
僕が初めて恥を克服できたのは、入社した広告代理店のクリエイティブ部門への異動を本気で志願した時でした。クリエイティブ部門でのインターンを経て採用されたので、広告の制作をすぐ担当できるだろうと思っていたのですが、全く違う部署に配属。やりたい仕事と目の前の仕事とのギャップに、毎日、悶々としていました。
転職を決意し、「この会社で自分が失うものは何もない」と思えたことが、恥を捨てられたきっかけでした。
恥は、理想の自分と今の自分のギャップから生じます。理想に対し、現実が追いつかないと恥ずかしいという感情が生まれる。
僕の場合は、クリエイティブ職として働く理想の自分と、当時の自分のがやっている仕事のギャップに恥を感じており、その恥によって、自分の行動が制限されていたことに気づいたのです。
「失うものは何もない」と思えると、なりふり構わず先輩方にアドバイスを求めたり、社内の試験を受けたり、自主制作に取り掛かったり。周りには冷ややかに見ていた人もいたと思うのですが、気にせずもがいているうちに、コピーライターの登竜門と言われるTCC新人賞やグッドデザイン賞を受賞。念願かなってクリエイティブ職に就くことができました。
今となってはそんな肩書にこだわっていたことすらも、もったいなかったと思うのですが、恥という感情が、自分の可能性を狭めていたこと、恥を克服することがチャンスにつながるというこの体験が、自分の恥と向き合うきっかけになりました。
福田:なるほど。自分のやりたい仕事をするために恥を捨てて行動したことが、きっかけだったのですね。確かに、恥は成長過程で生まれやすいと思います。では、年を取り習熟していくと、恥をかく機会は減っていくものなのでしょうか。
中川:恥の性質が変わっていくと考えています。
経験を積んでいるからこそ、失敗や認識不足による恥ずかしさが大きくなり、初心者よりも恥をかくことに抵抗がある。
まさに本のタイトル通り「いくつになっても恥をかける人になる」ということが大切なのではと。
これは就いている職業によっても変わってきます。
実際本の感想を医療系の仕事野方からいただくことが多く、医学界や学校教育の現場で「先生」と呼ばれる職業は、「周りから尊敬されないといけない」という気持ちから恥が強くなってしまうという意見がありました。
福田:確かに経験を積んで尊敬される地位を築いてしまえば、新しいことにも挑戦しづらい。何より専門分野で失敗することは、未熟な人の恥よりずっと大きいかもしれない。
この本を手に取ったときは、恥を解消する本だと思いましたが、実際は、「恥を受け入れた上で、どう行動するか」ということを教えてくれる本ですね。
中川:恥はネガティブな側面もありますが、ポジティブに捉えなおせばチャレンジの助けとなります。僕はPush myself forwardという言葉が好きなのですが、何かに挑戦するときは、自分で背中を押し続ける必要がある。
恥は障壁となりますが、新しいチャレンジの目印にもなります。それに気づくと、恥を栄養にして成長することができると考えています。
主催するオンラインコミュニティ恥部のメンバーがこれを『恥を食う』と表現しているのですが、恥を食うことに貪欲であればある程、自分を成長させることができるのではないでしょうか。
福田:この本では、人生の様々な段階で感じる恥を体系的に整理して分析されており恥への理解が深まります。
「すぐに実践できる恥のかき方」では、読んだその日から恥をプラスにする方法が知ることができ、自分の恥を見つめ直すことができますね。
中川:自分の恥を理解することで、他人の恥も理解できるようになります。例えば、上司は「自分の面子をつぶされることが恥だと思っている」と分かったのなら、面子をつぶさないことを第一に仕事を進め衝突を減らすことができます。さらに、他人に恥を押し付けることも減らせると思います。
本の中で紹介していますが、「若いうちは恥をかいてもいいんだよ」という上司の励ましの言葉が、反って部下の努力を「恥ずかしいもの」に変えてしまった‐‐なんていう瞬間ってたくさんあるので、他者に恥を押し付けず、押し付けられず、恥を感じにくい安心できる環境をつくることが、よりいいパフォーマンスを生むことにつながると思います。
福田:なるほど。どのように恥と付き合うかが、自己の成長のためにも、組織の成長のためにも重要なことが改めて分かりました。
Part2では、もう少し年齢を下げて考えていきたいと思います。
中川 諒氏
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記事制作:藤田航陽