SDGs概要
2015年9月に国際連合本部で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」において掲げられた17の持続可能な開発目標(SDGs)は、採択から4年が経ち、日本国内において業界問わず広く認知されるようになった。
教育界においてもその例外ではなく、新しい学習指導要領において持続可能な社会の担い手を輩出することの重要性が強調されたことも更なる追い風となり、初等・中等・高等教育の各段階において、公立・私立を問わず、それぞれの教育機関が創意工夫の元にSDGs教育を展開しているというのが現状である。
SDGs教育の定義
「SDGs教育」には確立した定義が存在せず、また、それを行うための教材や資料も十分に整っているとは言い難い現状であるところ、各教育機関おいて、目指す方向性にばらつきがあることもまた事実である。
国際連合日本政府代表部にてSDGsを担当した経験から、本稿では、SDGsの採択された背景に鑑み、「SDGs教育」が目指すべき方向性につき考察を試みたい。
SDGs 2030アジェンダが求める本質
2030アジェンダが求める本質は、これまでの各業界のサイロアプローチ(縦割り構造)を打破し、経済・環境・社会の3本柱を統合的に捉えることで各業界に「変革」をもたらし、よって社会を持続可能に足らしめることと要約できる。
言い換えれば、17の目標それぞれが密接に絡み合うグローバル社会の中で、それぞれの分野がその「繋がり」を意識せずにこれまで通りのアプローチで進めば、2030年には持続可能な社会は存在しないとの警鐘であり、17の目標の「統合性」を意識できるかが実現の大きな鍵となる。
SDGs教育ではまさにこの点を具体的なカリキュラムにいかに落とし込むかが重要になると思われる。
SDGs教育の設計
現在、多くの教育現場で散見される事例としては、探究学習の一環で生徒が各目標につき調べ(特に分かり易い環境事例を取り上げるケースが多い印象を受ける)、クラスで発表を行い、教員が考察を行うという手法である。
各分野の現状認識を行う上では非常に効果的であり、実際に筆者が派遣されている学校法人が運営する高等学校においても、まずは事実を知ることが重要との考えから、そのような手法を用いた学習を展開している。
同時に、上述の2030アジェンダの本質に立ち返れば、各目標の現状認識のみに終始し、「統合性」の気づきにまで到達しなければ、目標間の「繋がり」を意識した持続可能な社会の担い手を育てる本質的なSDGs教育とは言い難いことも事実である。
教育段階において取り上げ方や手法に工夫は要するものの、「気候変動問題と金融業界のあり方」や、「外国人の労働者問題と教育の国際化」といったような、一見繋がりのないと思われる課題を設定し、統合性に気づきをもたらすカリキュラムを展開していくことで、本質論に向き合う人材育成に繋がるのではないかと考える。
その実現のためには、学校現場で働く教員と、実際の社会で様々な課題に直面し、その解決に取り組む実務者との協力体制を構築することが肝要であることも私見として記したい。
グローバルの視点
加えて、「グローバル」という視点も肝要である。
教育界を含め、日本国内のSDGs実施に向けた機運は益々高まると同時に、その実施においては、国内のプレーヤーのみで行う傾向が見られるが、2030アジェンダの交渉時に日本を含めた先進国に期待された役割は、開発途上国への能力構築や人材育成といった国際連携の分野である。
この点、教育機関が果たす役割は非常に大きく、海外姉妹校との連携や外国人生徒の国内留学制度の構築等様々な取組みが実現可能であり、このような取組みを通じて、日本の次世代もボーダレスな現代社会の繋がりを肌感覚で感じることができる。
SDGs教育の今
現在、教育現場には、課題解決マインドを持った次世代の育成が実社会から強く求められているが、SDGs採択の本質に立ち返り、SDGs教育を「目標間の繋がりを意識した持続可能な社会の担い手を育てる教育」と捉えてカリキュラムを構成し展開することは、そのような次世代の育成に資するものである。
新型コロナ感染症に代表されるような、未曾有の、かつ前例のないグローバル課題に向き合う頭の体操ができる次世代を輩出することに繋がるものと確信している。
寄稿:学校法人摺河学園 学園長 山田基靖氏