2.幼児教育無償化の議論でも使われた、ペリー・プリスクール・プロジェクトとは?
なぜ子ども期が大切かということを示した調査に、ハイスコープ社が1960年代に行ったペリー・プリスクール・プロジェクトというものがあります。これは、3-4歳の子どもたちを対象に、幼児教育を行ったグループと伝統的な幼児教育のグループを分け、子どもたちが大人になった以降まで追跡調査を行っているものです。
40歳時点での両グループの比較結果は顕著で、学歴、年収から逮捕歴にいたるまで、顕著な差が出る結果となっています。
この調査は、幼児期の教育への投資は就学後の投資よりも投資対効果が高いというノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授の主張の論拠として知られることとなりました。
幼児教育への投資は、個人レベルもさることながら、国レベルで考えると経済的にも:
- 経済的成功と富の増加をもたらし税も増える、
- 健康的な生活を送る割合が増えることで医療費も減る、
- 犯罪現象により刑務所費用も減る、等等
ということで、投資対効果が高い、という整理です。
またヘックマン氏は、幼少期の教育により、所謂IQや知識量といった認知能力以上に、好奇心・コミュニケーション能力・社交性・協調性・精神の安定・やる気といった非認知能力の向上が人生の成功に大きな意味を持ち、その後の成功の重要な要因になっていると指摘しました。
就学前に適切な教育を受けることは、就学後の支援と比べても投資対効果が充分ある、ということで、幼児教育無償化の議論の中でも使われたようです。
しかし、ここでなされた幼児教育がどのようなものだったという論点は、あまり聞きません。
そこで纏めみますと、以下のような教育であったことが分かります。
- 子どもの興味を子ども自身の遊びの選択を重んじたアクティブラーニング形式
- 教室内にアート・ブロック・絵本などの興味分野別コーナーを配置、子どもたちは好奇心に従って遊びながら学ぶ
- 先生の役割は教えることではなく、共に遊び、話をし、子どもの興味をさらに引き出すことにある。
- 発達段階にあわせた教育内容(Developmentally Appropriate Practice、つまり早期詰め込み教育ではない)
つまり一言で言えば、子ども中心の教育であり、一斉保育や、知育教室で行われる早期教育、記憶教育とは大いに異なります。幼児教育の内容に注文のないまま、現状の日本の教育を無償化するのでは、国として期待した投資対効果が得られないのではないかもしれません。
では、この「子ども中心の教育」の根幹には、何があるのでしょうか。国際バカロレアとケンブリッジ国際という世界の2大国際カリキュラムを両方見ている者として、本連載「幼少期に身につけるべき、たったひとつのもっとも大切な力」の私なりの考えを、次にお伝えします。