4. 自己効力感と学力は相関するのか?
自己効力感(self-efficacy)は、心理学者アルバート・バンデューラが提唱した、ある課題に直面したときに自分はやり遂げることができると、自分自身を信じられる力をさします。
高い自己効力感はたゆまぬ努力をもたらし、結果的に高いゴールを達成するので、自己効力感→努力→成功→自己効力感のスパイラルをもたらします。
以下のことが学びと自己効力感の関係で分かっています。
- 高い自己効力感を持つ学生は低い自己効力感を持つ学生よりも良い成果を出す。
- 高い自己効力感と不確定な成功確率を組み合わせたとき、高いレベルの努力を刺激することができる。
- 高い自己効力感を持つ生徒に簡単な教材を与えると、過剰な自信を生み、よい結果は得られない。
では自己効力感はどのように生まれるのか、バンデューラは4点指摘しています。
1.チャレンジングな成功体験:
-成功体験は高い自己効力感を作り上げる(逆に失敗し続けると自己効力感は下がる)。
-簡単すぎる成功は、自己効力感を発達させない。
2.代理経験・ロールモデル
-周囲の成功から「あの人ができるなら私もできる」と感じること。なお「あの人」は誰でも良いわけではない。年齢や自分との類似性等から共感を持てるモデルである必要がある。
3.「できる」という言葉かけ
-「成功できる」と他者から言われること、または自分に言い聞かせることも含めて意味がある。
-逆に、低い自己効力感の人への他者からの言葉による批判は、破滅的な影響を与えることがある。
4・ポジティブで安定した心理状態
-過度の緊張・不安・疲労など、感情的な喚起が高すぎると自己効力感が下がる。
-欲求が無い状態など、感情的な喚起が低すぎても、自己効力感を発達させない。
-感情的に適切に落ち着いており、ポジティブな心理状態であることが、高い自己効力感をもたらす。
以上、自己効力感の高い子どもを育む4つのポイントを紹介しました。
まとめると、学習意欲を生み出すうえでもうひとつ重要なのは、その自信と成功を与える上で、高すぎも低すぎもしない、既存の知識を踏まえてチャレンジングな課題を提示することです。そこで参考として、「発達の最近接領域」という概念を紹介すします。
ZPD(Zone of Proximal Development) –発達の最近接領域-
ZPDは、ロシアの心理学者であるヴィゴツキーによって提唱された考え方です。
ドーナツを思い浮かべてみてください。
・ドーナツの空洞を「既存知識、一人で解決できる学習領域」
・ドーナツの外側を「発達段階から未成熟なため、解決できない学習領域」とすると、
・ドーナツの輪そのものがZPD=今現在は出来ていない、チャレンジングな学習領域だが、支援を得ることによって、達成可能な領域」
となります。易しすぎず(ドーナツの空洞)、難しすぎず(ドーナツの外)、丁度良いZPDエリア(ドーナツ可食部)を刺激することが、学びを最大化するのです。
たとえば筆者の近隣に、子どもたちが信号や標識のある環境で自転車の練習をしたり、信号が青になれば進む、赤になればとまるといったことを自然に学んでいく交通公園があります。
ここでは、「補助輪つき」「補助輪無し、親の手押し棒つき」「補助輪無し」の3種類の練習用自転車があります。幼児はいきなり補助輪無しでは自転車の乗り方をうまく学ぶことができません(ドーナツの外)。
しかし、「補助輪つき(ドーナツの中=ZPD)」からはじめれば、自力でできるようになり、次に手押し棒つきで親や教師の支援を得ながら、最後は完全に自分でこげるようになります。
簡単すぎても良くないが、発達段階以上に高すぎる内容は挫折を生み、学習意欲に不可欠な自信と満足を与えません。
ZPDは、学習内容を計画する際、子どもたちの発達段階や前提知識(ドーナツの空洞)を踏まえ、既知のことや周囲の環境(教師の支援を含む)を生かして新たな学びにつなげることが重要ということを教えてくれます。
早期詰め込み教育を例にとると、大人から見て意義ある内容と感じる課題も、発達段階から早すぎて、好奇心にも自己効力感にも逆効果ということが充分ありえます。その場合、子どもにとっては、「やらされ感満載」、となり、「生涯学び続ける力」の育成には逆相関となるでしょう。
理想的なのは、非常に好奇心がある内容に関する課題がチャレンジングなものであった場合です。好きなことであれば、高いゴールでもやり遂げようとするからです。結果として自己効力感育成にも寄与します。