1. アメリカでも強調される「学習者中心のまなび」
”21世紀というのは、こうすればうまく行くという正解を誰も知らない時代、つまり「答えのない時代」”です。
そうした中を生き抜いていけるのは、当然ながら、「決められた正解」を暗記するのがうまい人間ではありません。どんな状況でも「自分の頭で答えを考え出す力」や、それを伝えて人を動かしていく力を持った人間なのです。” 大前研一「大前家の子育て(PHP文庫) 」より「大前家の子育て」P5-6
日本では2020年代の新学習指導要領により、アクティブラーニングの実践が教室で行われるようになりました。2019年の私の子どもの公立小学校の授業参観でも、先生の工夫は見られ、「日本の教育現場も変わってきたな」と実感しました。
海外に目を転じると、日本で実施しようとしているアクティブ・ラーニングを、更にアクティブに深めた手法が世界各地で実践されています。例としての国際カリキュラムである「国際バカロレア」や、英国ケンブリッジ大学参加のケンブリッジ大学国際教育機構が開発した「ケンブリッジ国際」などがあります。これらについては別の項で紹介したいとおもいます。
ここでは、教育の未来に関する海外の研究考察事例を見てみることとします。
数十年にわたり膨大な教育理論を定点観測し、凡そ10年おきに纏め上げている教育理論の大家の一人である、米国のチャールズ・M・ライゲルースによる2016年の最新著書 “Instructional-Design Theories and Models – The Learner-Centered Paradigm of Education and Training – ”では、予測不可能な未来の教育は「学習者中心パラダイム(Leaner-Centered Paradigm)」への転換が不可欠として、以下のような教育内容の学びへのシフトを提言強調しています。
・内発的動機付け
- 自らやりたいという気持ちに即した学び。
・自己主導スキル
- 予測不可能な事態が起こった場合、自ら学んで頑張れるスキル。
・完全習得
- 各自のペースで一つのことを完全に学びとるまでやることで自己肯定感を持たせる。これが、人生を通じて予測不可能なことが生じたときに自ら学び解決できる能力を育てる。
・協働学習
- 今まで以上にコミュニケーション力とコラボレーション力が重要。例えば経理業務自体はほぼ自動化されても、財務経理をと経営を結びつけるCFOという業務は経営層とのコミュニケーションやコラボレーションが必要とされ、AIやコンピュータでに容易に代替されない。
ライゲルースの記した書は、主に北米の読者に向けて書かれています。北米の教育は、日本と比べ既にかなり「学習者中心」で、協働学習・自己主導学習面で進んでいると思えるにもかかわらず、21世紀に向けて現状では不十分であると警鐘を鳴らしている点、注目に値します。
またライゲルースの指摘したなかでも自分で学びとる力(自己主導スキル)=予測不可能な事態が起こった場合に自分でがんばることのできるスキル、は、既に見たとおり変化が激しく見通しが厳しい日本を鑑みると、特に重要なスキルといえるでしょう。
変化が多い21世紀の世界と日本では、表面的な知識は陳腐化してしまうので、常に自らの頭脳をアップデートする必要があります。そのためには何を学ぶかを考える以前に、「生涯学び続ける意欲」が備わっている必要があるといえそうです。
これから80年近くを生きるであろう子どもたちに、「生涯学び続ける意欲」をどのように身につけさせればよいでしょうか。そのヒントとして以下に、学習意欲デザインの第一人者であるJ.M.ケラーのARCS動機づけモデルを紹介したいと思います。