対談:3回 国際バカロレアで見えてきた「英語の時間と質」
ieNEXT編集部は、国際バカロレアが果たしてきた意義と今後について国際バカロレア大使で東京インターナショナルスクール理事長坪谷・ニュウエル・郁子氏とアオバジャパン ・インターナショナルスクール理事でムサシインターナショナルスクール・トウキョウ理事長の宇野令一郎氏に対談をお願いしました。
その対談から浮かび上がってきたのは、インターナショナルスクールだけではなく、現在の日本が抱える教育課題でした。
全4回連載
1.国際バカロレア200校で見えた「日本の教育課題」は、こちらをご覧ください。
2.国際バカロレアで見えてきた「小学校の英語教育」は、こちらをご覧ください。
3.国際バカロレアで見えてきた「英語の時間と質」は、本ページです。
4.国際バカロレアで見えてきた「大学の国際化と質」は、こちらをご覧ください。
宇野:実は最近、ieNEXT編集部が英語で幼児教育するプリスクールなどの統計を集計したそうです。ieNEXT編集部の統計では、日本に今現在、英語幼稚園、プリスクールなど英語の幼児教育施設は700園以上あるらしいんですね。*1
仮に1学年10人の生徒さんが毎年卒業しているとすると毎年7,000人以上の英語力の高い6歳児が小学校に進学しています。
ネイティブ並みとは言わないけれども、少なくともリスニングとスピーキングは英語力が相当高いバイリンガルに近い日本人の子どもたちが生まれている。
ところがプリスクール卒園後は、日本語で学ぶ日本の学校に行って、そのあと受験の波にのまれていく。
子どもたちがプリスクールで習得した英語力が喪失していくのが非常にもったいない思っています。
坪谷:プリスクール3年間で第二言語として約3,000時間触れるので、日常会話レベルに到達します。
しかし、5歳児の日常会話の深さは、おやつ食べたいとかですね、お腹がすいた、そういった5歳児レベルの内容にすぎない。
重要なのはそれから先です。
第二外国語と言えども、国語と同じで言語なんです。
言語を学習するということは、言われることが分かって、それに対して自分が答えられることだけではない。
例えばその言語で書かれた文章を読み込みをして、分析をして、要約していき、そこの中で自分なりの考えをまとめる。
それを例えばオーラルコミュニケーションでもライティングでも外に出して伝えることなどが一式となって言語です。
ですから全ての科目は言語が基本なんです。
言語が読めなくても書けなくても別にかまわない。特定の科目さえできればと考える方もいる。
その科目も研究論文を読むには、それはその言語で書かれているわけです。
それをまとめるにはその言語で書かなくてはならない。
だから言語は全ての学問のベースであると。
そこに第二外国語を入れるということは、やはりそれだけの時間もかけて、それだけの努力もしない限りは無理なんですね。
宇野:したがって、週1回の英語ではなくて、家庭でも、いろんなところで英語に小学校時代も触れていくというところが大事になってくると思います。
坪谷先生は、アフタースクールも、インターナショナルスクールも運営されています。
多くの親が聞きたいのは、段階的にバイリンガルになるには、週にどれくらい英語に触れていくのが必要でしょうか?
坪谷:私はですね、小学校4年までの間は最低でも週3回はうちのアフタースクールに来てくださいと言っています。
時間数でいうと週9時間です。
実を言うと週9時でも少ない。
希望としては週15時間は触れてもらいたい。
忙しい小学生
坪谷:だけど英語の習得は、家庭にとって、お稽古事っていう位置づけです。
サッカーもやらせたい、スイミングもやらせたい、バレエもやらせたい。
それも分かるんです、私も母親でしたから。
自分の子どもにはピアノもやらせてたし、バレエもやらせてたし、分かるんです。
だけど、英語の習得は習い事という位置づけですから、それだけに時間はさけないよねって。
その気持ちも十分、分かります。
宇野:このお話は、多くの方が子供をバイリンガルにしたいと思ってかなり多くの方が断念されている現実があると思うんです。
けれども、小学校から最低週3回3時間ずつ9時間という時間を英語イマージョンすると多くの方には貴重な情報だと思います。
坪谷:そうですね。言語の習得として考えると「人生と言語」として考えることもできます。
英語習得のゴール設定が例えば3,000時間なのか5,000時間なのか。
仕事を引退して退職した後に、海外に住みたいと思っているなら、65歳をターゲットに3,000時間考えてもかまわないんです。
大学院を卒業するまでの英語習得をゴールにするのも一つの手ですし、高校を卒業するまでにというのもあります。
どこをゴール設定にするのかということで家庭が計算して、学校では1,000時間だから残りの2,000時間はどんなふうに積み上げていくのか、計画が必要ということです。
英語の時間と「質」
1,000時間も学級規模と関係しています。*対談 1 「国際バカロレア200校で見えた日本の教育課題」
1クラスが仮に40人いるクラスにいるとします。授業が仮に50分だとクラスに40人がいた場合、一人が質問されて答えるのは、1分ちょっとです。
だから、時間数だけではなく、授業の間、ずっと英語でどれだけ脳が刺激されているかが重要です。
私が言っている3,000時間というのは、脳がその言語で話されている内容を理解して、それに対して自分の主張を言え、読んでる、聞いてる状態です。
常に新しい情報をその言語で脳に刺激を受けている時間の総数。
それが3,000時間だと考えていただきたい。
英語計画
では3,000時間にするのか。または5,000時間にするのか。
その上だと10,000時間です。
大学に行って英語が母国語の生徒と対等にやり合って、自分自身もストレスに感じないのが10,000時間だと考えています。
何時間を目安にどのように組んでいくかは、家庭で計画することができます。
3,000時間に到達するのは、中学生なのか、高校生なのか。または大学なのか。
社会人になってから3,000時間にし、キャリアパスで5,000時間、そして10,000時間にしていくのか。または、3,000時間を50代にしていくのか。
言語計画を持つことで各自が英語習得を積み立てるゴール設定ができること。そのようにして「人生と言語」を考えていけば良いと思います。
次は、4.「国際バカロレアで見えてきた大学の国際化と『質』」は、こちらをご覧ください。
全4回連載
1.「国際バカロレア200校で見えた日本の教育課題」は、こちらをご覧ください。
2.「国際バカロレアで見えてきた小学校の英語教育」は、こちらをご覧ください。
3.「国際バカロレアで見えてきた英語の時間と『質』」は、こちらをご覧ください。
4.「国際バカロレアで見えてきた大学の国際化と『質』」は、こちらをご覧ください。
取材:北岡優希、村田学
注釈:*1 ieNEXT編集部は、英語で学べる幼児教育施設は700園以上あり、現在データを分析中です。統計データは、「国際教育白書」として公表します。