国際教育理解への第一歩
大学入学資格と国際教育カリキュラム
グローバル教育や海外進学への関心が高まる中、SNSをはじめとするプラットフォームでも、日常的に情報が交わされています。しかし、専門的な話題が広がるにつれて、具体的に何について話されているのか把握するのが難しいと感じている人も増えているのではないでしょうか。特に、関心はあるものの、どこから理解を深めればよいのか困っている方が増えているように感じます。そこで今回は、国際教育を理解するための第一歩となる「教育カリキュラム」に着目。各国の大学入学資格について概観するとともに、国際的な教育カリキュラムである国際バカロレア(IB)やケンブリッジ国際教育プログラムが今なぜ注目されているのかについて見ていきます。
INDEX
▷各国の大学入学要件
▷どこまで通用する?日本の「高卒資格」
▷全世界的に通用する2大国際教育カリキュラム
▷APプログラムにも注目
各国の大学入学要件
日本で大学に入学するためには、高校の教育課程修了に基づいて授与される「高等学校卒業資格(高卒資格)」の取得が必要です。これ以外には、高等学校卒業程度認定試験(高認試験・旧「大検」)に合格することや、指定された専修学校の高等課程を修了することが入学要件として認められており、この条件をクリアした入学志願者のみ、大学入試を受験することができます。
海外の国々でも、日本と同様、大学入学に一定の要件が設定されています。以下に、代表的な国の一般的な入学要件を示します。
大学入学要件は、各国の教育制度、文化、大学の目指す教育の質などに深く根ざしています。これらの違いを理解することで、自分が目指す大学や専攻への進路をより具体的に考えることができるでしょう。
どこまで通用する?日本の「高卒資格」
近年、世界各国は、海外からの留学生の獲得競争が熾烈になっています。国によって背景は様々ですが、理由は大きくわけて3点あります。
一つ目は、キャンパス内の人材を多様化することが、より創造的な学習環境につながると考えられていること。外国人学生比率は主要な世界大学ランキングでも評価指標のひとつになっています。
二つ目は、大学の資金獲得手段になっていること。自国学生と海外留学生に別の学費設定を課している国・大学にとって、海外留学生は貴重な資金源です。財政基盤を安定させるために、また、自国学生に安価で良質な教育を提供するために、戦略的に海外留学生を増やしている側面があります。
三つ目は、将来不足する労働力を補うため。今や少子高齢化は先進国共通の課題です。今後、不足し続ける若年労働力を補うための方策として、外国人留学生の獲得とその定着に期待する国もあります。他でもない日本も、ここに力を入れようと動いています。
各国とも、海外留学生を積極的に獲得したい思いはありながらも、同時に、大学入学要件を設定しているため、他国の大学入学資格が自国の要件を満たしているのかを個別に判断しています。そして、要件を満たしていない国の学生には、専用の大学進学準備コースを用意するなどして対応しています。
では、日本の高卒資格はどこまで通用するのでしょうか。
上記の表でまとめた英語公用語国の4か国(アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ)のうち、イギリスとオーストラリアの2カ国については、日本の高卒資格では直接進学できません。大学入学資格を得るために、一定期間、ファウンデーションコースと呼ばれる大学進学準備コースに通わなければならないのです。
日本の教育は、国際学力調査で高い成績を残していることからもわかる通り、決して他国には劣りません。しかしながら、海外の大学進学も視野に入れた場合、接続が難しいケースが生じてしまいます。留学生獲得競争が激化している「売り手市場」にあるなか、優れた能力を有しているにもかかわらず、国際標準の大学入学資格がないためにそこへ参入できないのは非常にもったいない状況と言わざるを得ません。そこで近年、注目が高まっているのが国際的に標準化されている教育カリキュラムなのです。
全世界的に通用する2大国際教育カリキュラム
国際的に広く通用する大学入学資格として名高いのは、国際バカロレア(IB)とケンブリッジ国際教育プログラムです。これらは国ごとに具体的な取扱いは異なるものの、世界中の多くの大学で幅広く受け入れられています。一部の大学では優秀な成績を取得した生徒に対して入学後の履修免除(単位認定)の特典を付与するなど、さまざまな優遇措置を行っています。
国際バカロレア(IB)は、スイスに本部を置く非営利の教育団体である国際バカロレア機構が展開する教育プログラム。高校生向けのカリキュラムと、その修了試験合格者に与えられる「IB Diploma(IBDP)」は大学入学資格として広く認められています。IBは、生徒が自己管理能力や思考力、国際理解力などを身につけることを重視し、学問を体系的に学ぶための6つの学習領域を設け、それぞれから少なくとも一つの科目を選択して学習します。
一方、ケンブリッジ国際教育プログラムは、イギリスの大学入学資格と同等に位置づけられています。このプログラムは、ケンブリッジ大学が開発した国際的な教育カリキュラムで、高校生向けには「Aレベル(International AS & A Levels)」と呼ばれる認定試験を実施しています。海外の大学入学時に求められる科目数は3~4科目と少なめですが、各領域で深い知識と高度な学習スキルを身につけることが必要となります。
国際バカロレア(IB)とケンブリッジ国際教育プログラムについてより詳しくお知りになりたい方は以下の記事をご覧ください。
【セミナーレポート】世界2大カリキュラムー国際バカロレアカリキュラムとは
【セミナーレポート】世界2大カリキュラムーケンブリッジ国際カリキュラムとは
APプログラムにも注目
また、IBやケンブリッジ国際教育プログラムに並ぶ海外大学入学資格として、近年、認知度があがっているものにAdvanced Placement(AP)というプログラムがあります。これは、アメリカの大学入学試験準備の一環として非営利団体カレッジボードが開発したもので、高校生が大学レベルのプログラムを学び、その理解度を試験によって評価するというものです。
包括的な教育カリキュラムではありませんが、自分の学びたい特定の領域をピンポイントで選ぶことができるのが魅力の一つ。複数科目を積み上げることによって入学資格として認める大学や入学後の履修単位として認定する大学も登場しています。履修科目の単位として認定されれば、学士号取得までの時間を短縮したり、その結果として学費を圧縮したりできるなどの効果も期待できます。近年、国際的に広がりを見せているAPプログラム。認定国・大学も増えつつあり、こちらの動向にも注目したいところです。
原稿:Knockout
編集・構成:原知子