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全ての県にインターナショナルスクールを①

全ての都道府県にインターナショナルスクールの設置を提唱している有澤和歌子さん。「日本の公教育が一番」と信じてやまなかった有澤さんは、なぜ、インターナショナルスクールの設立に情熱を注ぐようになったのか。自身の経験、子育ての経験を踏まえて感じたインターナショナルスクールが子どもたちにや地域に及ぼす影響とは。子どもたちと世界をつなぐ教育のカタチについて考える連載コラムです。


有澤 和歌子氏 Denmark株式会社代表取締役、精華学園探究アカデミー東京校 親子の学びアドバイザー、ヨシダflamingo帽子アンバサダー。富山県出身、青山学院大学経営学部卒、働くお母さん歴21年。旅行が趣味で42か国に渡航。2020年デンマークの『フォルケホイスコーレ』に留学し「ヒトの耕し方」を学ぶ。2021年3月に起業。日本の子どもたちが「透明の箱」に気づく教育サービス「Out of Box」をスタートし、子どもたちと世界をつなぐオンライン授業を展開。2022年10月より全ての子どもたちが平等に学びの場を選べるよう、全都道府県にインターナショナルスクールを作る活動を開始。周りの大人を変えるためフォルケホイスコーレの併設も画策中。


【連載】全ての県にインターナショナルスクールを①

地方の子どもたちにも知ってほしい「世界へのどこでもドア」

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都会にあって地方にないもの‐‐。その代表例として『インターナショナルスクール』があげられるのではないでしょうか。

高校卒業まで富山県で過ごした私は、『劇団ひまわり』はテレビで知っていても、『インターナショナルスクール』は知りませんでした。子どもの頃は、外国への淡い憧れはあっても、英語で学ぶ学校が日本にあるなんて思いもしませんでした。もちろん、その必要性もなかったのでしょう。ただ、今となっては、自分が都会育ちだったら違う人生を送っていたのではないかと思うこともあります。

私は、息子が小学校に入るまでは「日本の公教育が一番だ」と思う母親でした。25年間勤務した日本のIT企業を退職後、海外と繋がる企業に勤めるようになり、そこで初めて子どもをインターナショナルスクールに通わせる日本人家庭が多いことを知ったのです。

ちょうどその頃、息子の”学びの場”について迷っていた時期でした。息子は横浜市の公立小・中学校を卒業後、日本語で学べる国際バカロレア(IB)カリキュラムの高校に進学しました。ところが、IBの特殊ともいえる勉強方法と英語力を格段にあげることの両立はなかなか難しく、両方を習得できる編入先を検討していたのです。

これまで身近ではなく、学ぶ場として想像もつかなかったインターナショナルスクールですが、調べてみると、英語力があれば国籍や海外滞在歴に関係なく入学できるスクールもあり、私立中学・高校を選択するのと同じような感覚でインターナショナルスクールを選ぶこともできることが分かりました。

そして、編入先を悩み始めてから3ヵ月。ついに、我が家も息子を高校2年生からインターナショナルスクールで学ばせる決断をしたのです。(余談ですが、保護者の英語力で入学考査をしてもらえないインターも複数ありますのでご注意ください。私は3校断られました。)

高校1年生までは“普通の子”だった息子は、インターナショナルスクールで学ぶうちに、地域・国・世界を高い視点から見られる人間へと変化していきました。特に、大人を巻き込む力行動力は、驚くほどの成長を遂げました。日本の学校との大きな違いは、どんな活動においても自由度が高いことです。インターナショナルスクールの生徒たちは、自分たちのやりたいことを実現することがミッションであるという安心感から、いろんな大人に声をかけ、頼り、自分たちでどんどんプロジェクトを前進させていきます。小さな失敗もたくさんします。相談先は世界中の仲間や大人なので、自分たちでは想像することもできなかったような事例があっという間に集まるのです。世界中からスピーディに知見が集められる”武器”をもった彼は、怖いもの無しの青年へと成長していきました。これは彼が特別な能力を持っていたというのではなく、学びの環境が変わったことで、物事の見方と行動が変わったことが一番の理由だと思います。

この経験は、私に「インターナショナルスクールが『世界へのどこでもドア』である」ということを気づかせてくれました。日本の教育機関では得る事ができない経験と学びがそこにはあります。インターナショナルスクールで学ぶ機会さえあれば、日本中のどの子どもも、同じような変化をたどることができるでしょう。

しかし、国内において、インターナショナルスクールは首都圏を中心とした16都道府県にしかありません。それはつまり、残る31県の子どもたちには『世界へのどこでもドア』となる学びの場がないということを意味します。「選ばなかった」のと「選択肢すらなかった」のでは、全く違うこと。都市部だろうと、地方だろうと、教育の機会は、全ての子どもたちに公平であるべきだと考えます。私が提唱している『1県1インターナショナルスクール構想』は、この教育機会の不公平を解消し、全ての子どもたちに「世界へのどこでもドア」を選ぶ選択肢を用意してあげたいという想いが原点となっています。

近くにインターナショナルスクール、ありますか?
知らないと子どもが損をする!世界に開かれた学び方

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子どもたちに良い教育を受けさせたいと思うのは、多くの親や教員の共通の願いでしょう。その延長線上に、インターナショナルスクールという選択肢があるのだと考えています。

日本のインターナショナルスクールの歴史を紐解いてみると、明治時代にナショナルスクールとして設立された外国人学校に始まります。日本に住む外国人の子どもたちを対象に、ドイツ人学校、アメリカ人学校、カナダ人学校、といった形で、日本に住む特定の国の人たちが、子どもの教育を気にすることなく安心して日本で生活・仕事ができる環境が必要であったため開校されました。1940年頃、外国人学校の入学条件が緩和され、その国以外の子どもたちも受け入れるようになりインターナショナルスクールへ名称変更。1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博など、日本の国際化が進むにつれて、インターナショナルスクールも増加しました。(※インターナショナルスクールタイムスより)

一方で、海外赴任から帰国する日本人も増え、帰国後の学びの場として、インターナショナルスクールを選ぶ家庭も少なくありませんでした。さらに、2002年に閣議決定した「規制改革推進3か年計画(改定)」で「インターナショナルスクールにおいて一定水準の教育を受けて卒業した生徒が希望する場合には、我が国の大学や高等学校に入学する機会を拡大する」ことが決まり、一定の条件をクリアしたインターナショナルスクールであれば、それまで必要だった大学入学資格(=大検、現・高卒認定試験)を取得することなく日本の大学への受験が可能になりました。これを受け、帰国後の学びの場としてインターナショナルスクールを選択する自由度が格段と上がったと言えます。

帰国後にインターナショナルスクールを選ぶ背景には、子どもたちの日本語力の問題もあると思いますが、現地で受けてきた教育を継続させたいという思いがあったからではないでしょうか?それが子どもたちの未来にとって良い教育だと判断したからだ、と。最近では、海外生活経験のない日本家庭の子どもたちもインターナショナルスクールで学ぶケースも増えているといいます。これには、帰国家庭の友人・隣人の影響を受けたり、インターナショナルスクールが身近になったりしたことで実際に通わせるというケースもあるのではと推測しています。近年、関東を中心に日本のあちこちにインターナショナルスクールが設立されているのは、こういったニーズが増えたことに対応するためにほかなりません。

子どもにだけじゃない!
インターナショナルスクールが身近にある効果

私は2021年に起業し、全国の小中高校に世界に住む日本人講師によるオンライン授業を日本全国に届けています。日本を飛び出して世界各国で生活をしている方々に講師をお願いし、ご自身の経験などを話していただきます。日本で生まれ育ってきた子どもたちに固定概念や自分を取り巻いていた“透明な箱”に気付き、箱の外の世界への一歩を踏み出すきっかけづくりを目的としています。

全国にこのオンライン授業を届けるうちに、“透明な箱”の中に入っているのは、子どもたちだけではなく、周りにいる大人もそうであることに気が付きました。

保護者でも、教員でも大人たちは「子どもたちには世界をもっと知ってほしい」という思いはあるものの、実際に「外国で生活する」「日本に居ながらも外国人の中で生活する」という具体的なイメージを持っている人は少ないのです。

似たような経験は、海外大学の日本法人で働いていたときにもありました。

今から5年程前、日本の高校生に海外大学への進学を提案する業務にあたっていましたが、当時は、海外大学で学ぶことの必要性を感じていない保護者・教育関連者がたくさん存在していました。多くの教育関係者が、海外大の進学実績よりも、国公立や難関私立大への進学実績のほうに高い関心を持っていましたし、「日本の大学に進学して、在学中に1年ほど留学すれば十分」と断言する大人がとても多かったのです。

身近に「世界へのどこでもドア」がないことは、大人も無意識のうちに、無限に広がる子どもの可能性すら“透明な箱”の中におさめてしまうのだと感じました。これでは「”未来”へのどこでもドア」もないのも同然です。インターナショナルスクールがもっと身近にあれば、この課題はきっと解決できるでしょう。

都会にはあって地方にはないものの代表がインターナショナルスクールであり、それがないことで子どもたちの未来への選択肢が大きく狭まっています。もはや、全ての都道府県にインターナショナルスクールがないことは、教育の不平等を招いていると言えるのではないでしょうか?

「世界へのどこでもドア」を知った子どもたちは、学校を、地域を、そして国をも変えていきます。そして子どもたちが変化する過程で生まれ出てくるパワーが教員・社会・世界に伝播していく。そんな未来を創ることに繋がる学校がインターナショナルスクールであり、全ての都道府県に必要だと思うのです。

(連載②へ続く)

Illustrations & Photo by Wakako Arisawa

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